「平沢進/P-MODEL」カテゴリーアーカイブ

点呼する惑星 (1)

2003 蛮行と戦争の恐怖で制御される惑星 ―― BLUE LIMBO
2006 枯れシダ教に支配された世界 ―― Live 白虎野
2009 メガホン・タワーから日に1000回ものコール

今年の惑星は点呼する!!

Planet Roll Call 点呼する惑星
2009年2月18日発売
ケイオスユニオン(TESLAKITE)
CHTE-0046
01. Hard Landing
02. 点呼する惑星
03. 人体夜行
04. Mirror Gate
05. 王道楽土
06. 上空初期値
07. 聖馬蹄形惑星の大詐欺師
08. 可視海
09. Phonon Belt
10. Astro-Ho!帰還

平沢進の『BLUE LIMBO』『白虎野』に続く、ディストピア3部作(例によって勝手に命名)の完結篇。
その途中には、核P-MODEL名義の『ビストロン』という「番外篇」もあったわけで、21世紀の最初の10年はディストピアの告発と克服に充てられたとも解釈できる。
ひとつの契機となったであろう9.11も随分と遠い記憶となってしまった。

また本作は、ある「物語」をベースにしたコンセプト・アルバムでもある。
ただし、Phantom Notes に記されたセルフ・ライナーノーツによると、リスナーの自由な解釈を阻害しないよう、その「物語」はいったん解体され、アルバムにはその骨子と断片のみが残されたらしい。
平沢がアルバム制作後に断片を再構築した物語は次のインタラクティヴ・ライヴで明らかになる。


荒涼とした平地が果てしなく続く「点呼する惑星」。
文明の気配はなく、しかし不気味に並ぶ無数のメガホン・タワーは日に何度も点呼を繰り返す。
何処に居ようとも届く点呼の声に、その男の脳ははっきりとした「世界」を作り出す。
男はその「世界」に住んでいるのだと信じていたのだが…。
彼は、地図にはない地の果てを目指す旅に出た。


私はこのアルバム『点呼する惑星』を作るにあたって、ある物語を作った。
しかし、それは創作の地図として作ったに過ぎず、伝えたいメッセージとして在ったものでは ない。
これは音楽の作品である。物語は音楽の流れを整えるために解体され、断片化された。
まずは音楽として楽しんでもらいたいと思う。
「点呼する惑星」の物語は、リスナーの数だけ有っていいのだ。(平沢進)


(以上、オフィシャル・サイト NO ROOM より)
noroom.susumuhirasawa.com/modules/artist/rollcall.html

M10「Astro-Ho!帰還」が示すように、これは地球に帰還したAstro-Ho!の物語なのかと思い、うっかり「地球オチ」の名作ディストピアSF『猿の惑星』を思い出してしまったが、そう単純な話でもないらしい。
「Astro-Ho!」とは、99年にP-MODEL名義で公開されたMP3「Astro-Ho (narration Ver.)」に登場し、平沢が「宇宙の捨て子」と呼ぶキャラクタで、2006年には平沢進名義で公開された亜種音TV Vol.14「ASTRO-HO-06」で再登場した。
「宇宙の捨て子」からは「宇宙の孤児」という言葉も浮かぶが、ハインラインはあまり関係がなさそう(アルファ・ケンタウリは出てくるけど)。
平沢版「コンスタント」「トム大佐」「トーマス・ジェローム・ニュートン」と言い換えてもいいだろう。

作品のイメージに重要なヒントとなったのが、平沢が常にフェヴァリットに挙げるロシアSF映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』なのは言うまでもない。
さらに加えるならば同じロシアSF映画『惑星ソラリス』あたりか。

個人的に思い浮かべたSF映画に『ミクロの決死圏』がある。
この映画では潜水艇か宇宙艇のような乗り物が不思議な空間を旅するが、そこは宇宙でも海中でもなく、人間の体内なのである。
べつに「実は体内だった」オチというわけではないが、インナー・スペースもアウター・スペース同様に不思議な世界であることを幼児だった自分に教えてくれた。


あなたが人より遠くへ行けないのは、あなたが描いた地図のせいだ。


Phantom Notes 2009年1月22日 新譜世界断片高倍率拡大図7 より
noroom.susumuhirasawa.com/modules/phantom/index.php?p=116

結局、この世界を形作っているのは自分のイメージであり、自分の脳内イメージから逃れられない。
『マトリックス』などもそうだが、結局、ディストピアを形作っているのは、自分のイマジネイションなのである。
ジョン・レノンに言われなくても、養老孟司に言われなくても、そうなのである。
いや、言われてもいいんだけど。

これは「Live 白虎野」でもそうだったが、ディストピアから脱出するには「支配者を討つ」のではなく、自分自身と対決するしかない。
その意味では、平沢進というひとは一貫している。
恐怖のパレードも「キミの名の下に」やって来るのだ。
他人のせいなんかにしないのである。

『BLUE LIMBO』『白虎野』と続いたせいか、平沢進は陰謀論のひとだと思われている節もある。
陰謀論というのはSFのようなもので、通常の世界観とは違う、もうひとつの視点を得るという意味ではたいへん面白いし、フリー・エネルギーなんかと同様に平沢の想像力をかき立てるひとつの素材になったであろうことは想像に難くない。
ただ、平沢はオカルト信者のような「ロマンチスト」ではないし、そっち方面には意外なほど(残念なほど?)醒めた視点を持っている。
そんなに平沢進は「いい人」でも「おめでたい人」でもない。
そんなことは平沢リスナーなら百も承知だろう。
いや、性格が悪いわけではないが(笑)。

現実感を削ぎ落として、異世界での物語に仕上げているものの、そこには恐ろしい現実の鏡像がある。
とはいっても、ガチガチにシリアスなものはなく、主人公と思われる主観的存在を「バカじゃねーの」と天空あたりから見ている客観的存在がある。
きっちり組み上げた物語ではなく、積極的に穴だらけでバカバカしい。
これは『キン・ザ・ザ』を観たことがある者ならば納得の「質感」である。

点呼する惑星 (0)

さて、いよいよ明日は平沢進『点呼する惑星』の発売日である。
新譜は発売日前日には店頭に並ぶのが通例であるから、もう多くのリスナーがアルバムを手にしたことだろう。
発売日より前に入手することを、和製英語でフライング・ゲット、略してフラゲと言ったり書いたりするらしいが、略する前の和製英語ですら意味不明なのに、加えて略するともう何語であるかさえわからなくなる。
こういう元は隠語のような仲間内でのみ使っていた言葉が一般化するのは、自らが所属する閉鎖的な小さなコミュニティ内でしか通用しない言葉を「外の世界」でも無頓着に使うことから広がっていくのだろうが、きっとコドモかイナカモノなんだろうな。

そういえば流行語になった(させた)らしい、アラサーとかアラフォーとかいうのも、いかにもイナカモンの集まりの広告業界が言い出しそうなフレーズである。
そういえばキンクリとかロバフリとか略する不届き者がいるが、いったいなんなのだろう。
ピーガブにいたっては蔑称のような気さえするが、ここまでくるとちょっとだけ面白い。
そういえば一時期、ムスタングをマスタング、ムーグをモーグに言い換えたように、ピーター・ガブリエルをピーター・ゲイブリエルに言い換えようという動きがメーカ主導であったけれども、根付かなかったな。
それならば、ピーゲブか。
もう妖怪の名前だよ。
それより前に、レッド・ツェッペリンをレッド・ゼプリンと言い換えたほうがよいように思うが、福田一郎先生は喜んでも渋谷陽一先生は喜ばないだろうな。

話が逸れた。

今回は発売日にはレヴューを書き上げて、一気にレヴュー・コーナーに掲載しようと思っていたのだが、なかなかそうもいかない。
またいつものように、だらだらと思いついたことを書き綴って、忘れたころにまとめ直して、レヴュー・コーナーに載せることとしよう。

税関はいつまで休んだか

インフルエンザのおかげで予定外に長く取ることになってしまった正月休みの楽しみにと、壊れてしまった Psion Series 5 の修理をすることにした。
もちろん、そんなもののパーツは国内で普通に売られているわけがないので、海外(イギリス)から買うことになる。
しかし、ちょっと考えが甘かった。
郵便物の通関を行う税関はお役所であり、12/27から1/4までの年末年始はたっぷりとお休みになるらしいのである。
郵便物の通関業務が日曜祝日や土曜午後が休みということは知っていたが(これも初めて知った時は驚いた)まさか、9日間にわたって休もうとは思わなかった。
おかげで、元日に成田に着いた荷物は今日(5日)まで寝かされるはめに。
ネットでトラッキングしたところ、ようやく本日昼に通関を終え、現在は近所の配達局まで輸送中である。

ちなみにに、12/27に東京からドイツへ向けて発送した荷物は、12/29にフランクフルトへ到着し、ちゃんと1/2には配達されている。
生活習慣の違いはあるとはいえ(向こうはクリスマスに休むだろう)日本のお役所ももう少しなんとかしてもらいたいものである。
郵政民営化でサーヴィスが向上しても、これでは意味なしである。
せめてEMSくらいは、休日関係なく通関業務をすべきではなかろうか。

これが趣味のものであったからまだいい。
仕事関係であれば、EMSなんぞ使わずUPSなりFedExなりDHLなりを使うだろう。
それらのいわゆる国際宅配便は、通関業者も兼ねているので、休日も関係なく通関業務を行っており、荷物を寝かせるようなことはしない。
EMSより割高とはいえ、ビジネス用途なら背に腹は代えられない。

そういえば、昨年の平沢進のライヴ PHONON 2551 で使った Musical Tesla Coil Zeusaphone は、本番3日前になってようやくリハーサル・スタジオに届いたのだが、もし FedEx を使っていなかったら本番に間に合わなかったかもしれない。
輸入代行業者(笑)としては、実にはらはらさせられた。
国内では極めて珍しいブツであったため、通関に引っかかって中身をチェックされることになったが、通関を終えた荷物はいちはやく引き取りたいむね相談すると、配達先の変更だの、特別便だのとさまざまなオプションを用意してくれた。
もちろん有料だけど。
パーツごと4個の箱に詰められた Zeusaphone が届いた時には万歳三唱したものである。

Zeusaphone の制作者によると、テスラ・コイルを楽器としてライヴで使用したミュージシャンは、世界で平沢進が初めてなそうである。
それもそのはず、Zeusaphone 自体が売れたのもこれが初めてらしい(笑)。
ただでさえ怪しいテスラ・コイルを「電子楽器」だと言い張って、よく通関をパスしたものである。
テスラ・コイルで「演奏」したわけではないが、日本におけるテスラ・コイル研究者/パフォーマの第一人者、薬試寺美津秀さんが作った巨大テスラ・コイルがチューブのコンサートで使われた例はあるそうで、ひょっとすると、それが「前例」になったのかもしれない。

通関をパスしたとはいえ、Zeusaphone が果たしてほんとにネット上の映像で見たようにバリバリ働いてくれるのか、組み立ててスウイッチをオンした途端に感電や電磁波で黒こげにならないか、たとえ派手に動いてくれたとしても会場側に「やめてくれ〜!!」と言われやしないか、などなど心配したが、結果から言えば大成功である。
にしても、紙切れ1枚というAmigaの周辺機器並みに簡素なマニュアルで、よくぞちゃんと組み立てて稼働させられたものだ。
感電を恐れずMIDI機器を接続・調整してくれた音響スタッフに感謝。
もちろん、最終的にサウンドを奏でたたのは演奏者自身なわけで、いくらAmigaで慣れているとはいえ、コンピュータのハングアップももろともせず、変態な機器をよくぞ使いこなしたものである。

今回はステージの広さの都合で、ファラデー・ケージは125cm四方、高さ310cmというサイズに縮小されたが、本来は250cm四方であり、放電の規模もケージのサイズまで大きくなる(予定)。
次の活躍が楽しみである。

ヒラサワはキャパに並んだか

SP-2

11月1日。
そろそろ平沢進の単行本『SP-2』が書店に並んだころだろうと、事務所近くの紀伊國屋書店渋谷店まで行ってみた。

まず、新刊コーナーを探してみる。
ない。
タレント本コーナーを探してみる。
ない。
タレントの写真集コーナーを探してみる。
ない。
サブカルチャーのコーナーを探してみる。
ない。
文学・エッセイのコーナーを探してみる。
ない。

うーむ。
店員にきいてみることにする。
店員はPCで検索したのち、この本でよいかと画面を確認させてくれる。
では、ちょっとお待ちをと、若い男性店員はすでにわたしが見て回った書棚を探しに行く。
もちろんない。

男性店員は先輩と思われる女性店員に相談する。
こんどはふた手に別れて探しに行く。
すみませんね、ほんとは客じゃないんです、担当編集なんです、すみません。
と心でつぶやきつつ、レジ前に佇んで店員の動向をうかがう。
なかなか発見されない。
店員はアート本や芸術系写真集のコーナーを眺め回している。
そうか、そういうコーナーもあったなと思って遠目に見ていると、覚えのある背表紙が書棚の上にほうに棚差しになっているではないか。
店員の目は素通りしてしまったようなので、書棚へ進み、自分の手で取る。
「これです、これ」

隣はロバート・キャパの写真集である。
名誉ではある。
しかし、営業的なことを考えるはなはだ困ったことである。
広い書店の奥まったところにある芸術系写真集のコーナーの上のほうに棚差しでは、客の目に留まる機会は非常に少ない。
せめて平台に置いてもらいたい。
理想を言えば、ロバート・キャパの隣ではなく、話題の新刊コーナーでファン・ジニ写真集であるとかB’z20周年記念本であるとか、そうした大型本と一緒に並べていただきたいのである。

書店への営業対策を考えつつ、手に取った本を申し訳なさげに書棚へ戻して紀伊國屋を後にしたのだった。
手間をかけさせてしまった店員さん、ごめんなさい。

さて、困ったのはリアル店舗だけではない。
ネット書店でも困ったことはいろいろある。

まず、最大手のAmazonであるが、配本日である10/29に”SP-2″で検索したところ、出てこない。
“SP-2 タイ””SP-2 ニューハーフ”などで検索してもヒットせず、ようやく”SP-2 平沢”で出てきた。

11/3現在ではAmazonでも”SP-2″だけでヒットするようになったが、この時点では”SP-2―タイのニューハーフ?いいえ「第2の女性」です”と、ページに掲載されたタイトルをC&Pして検索してもヒットしなかったのである。
10/29時点では『SP波動法株式攻略読本 (相場読本シリーズ2) 』とか『剣客商売 (2) (SPコミックス―時代劇シリーズ)』とか、どこがSP-2なんだか遠いにもほどがあるようなものばかりヒットしていた。
Amazonの検索システムの詳細は知らないが、きっとGoogleなどと同様に、単純な全文検索結果ではなく、実際にリンクをクリックした結果が検索結果の順位に反映されたりするシステムなのろう。

紀伊國屋やセブンアンドワイなどでは、早い時期から”SP-2″でちゃんとヒットしていたし、読者にとってはそっちのほうがありがたいのではないかと思う。
bookweb.kinokuniya.co.jp/guest/cgi-bin/wshosea.cgi?KEYWORD=SP-2
www.7andy.jp/books/detail/-/accd/32154489
www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032154489&Action_id=121&Sza_id=B0

ちなみに、ビーケーワンは”SP-2″ではヒットせず”エスピーツー”でなくてはならないようだ。
www.bk1.jp/product/03049458

八重洲ブックセンターでは”エスピー ツー”とキーワードを分けなければヒットしなかった。
yaesu-book.jp/netshop/index.cgi?ses_id=&allkey=%2Bauthor%3A%CA%BF%C2%F4%BF%CA&key=&top=0&cd=51&btob_flg=$bto_flg$&predsp_id=41&dsp_id=42&nextdsp_id=41&popdsp_id=&bid=2230174

面白いのは三省堂で、各店のどのコーナーに置いているのかまで、検索結果で表示される。
やっぱり、写真、美術書、アートにくくられるのか。
www.books-sanseido.co.jp/reserve/zaikoDetail.do?pageNo=1&action=%8D%DD%8C%C9&isbn=4309908063

また、Amazonは一般書店と異なる流通システムをとっているせいか、11/3現在、本の内容紹介が掲載されていない。
本来は取次経由で注文票や本の内容紹介は各書店へ伝播しているはずなのである。
表紙写真もAmazonでは11/2か11/3にようやく掲載されたが、それ以前はなかったので、しょうがなくユーザ投稿の形で掲載した。
そういえば、一部のネット書店では、サブタイトルが途中で切れてしまう現象があって、登録システムのせいだとは思うが、謎である。

www.jbook.co.jp/p/p.aspx/3667577/s/~6b19cf0ce
books.yahoo.co.jp/book_detail/32154489
(と思ったら、とりあえずYahoo!ブックスは修正されているようだ)

表紙写真といえば、どうもよくわからないのが、ネット書店によって掲載写真が違っている点である。
本来は、出版社側から配布されている写真、この本で言えば上に掲載したのと同じ写真がネット書店でも掲載されているはずなのであるが、上記リンクを見てもらえればわかる通り、まちまちなのである。
たぶんオフィシャルな写真がちゃんと届いていなかったために書店もしくは流通が独自に撮影(スキャン)したと思われるが、みなさん手間をかけさせて済みません。

ec2.images-amazon.com/images/I/41puqtKuq5L._SS500_.jpg
img.7andy.jp/bks/images/b9/32154489.JPG
bookweb.kinokuniya.co.jp/imgdata/large/4309908063.jpg
(紀伊國屋なんかはシュリンクの上からスキャンしたようだ)

でも、そういえば『改訂復刻版 音楽産業廃棄物』でも、Amazonなど表紙写真はオフィシャルのもではなかったなあ。
どういう原因なのか、こんどはちゃんと調べてみることにしよう。

こうしたことは、もちろん書店側に一方的な非があるわけでない。
今回は発行元と発売元が異なるので、連携の問題もあるかもしれないし、営業的な問題かもしれない。
制作担当である、わたしの責任もあるかもしれない。
今からできる対策はしておき、今後の反省材料としたい。

と、いつになく真面目に締めてみる。

SP-2は微笑んだか

平沢進、初の著作『SP-2』が今月末に刊行される。
3日ほど前、ようやく刷り上がってきたので、見本を届けてもらった。
編集者としてこの半年つきあってきた本なので他人事ではなく、思うことは多々あるのだが、そういう話はまた追々。

SP-2

  • SP-2 タイのニューハーフ? いいえ「第2の女性」です
  • 執筆・撮影: 平沢進
  • 発売日: 2008年10月31日(地方によって前後します)
  • 本体価格: 3500円(税別)
  • 発行: ケイオスユニオン 発売: 河出書房新社
  • ISBN 978-4-309-90806-9 C0095
  • B5変形(四六倍判) 上製 全208ページ(カラー104ページ)
  • 仕上がってきた本を手にとってまず思うのは、重たい、ということである。
    もちろん束見本で重さはわかっていたのだが、中が真っ白の束見本と違い、ちゃんと印刷されて中味のある本であるからして、手にとって読もうとする。
    数ページめくっているうちに、手にずっしり重さを感じ、さらにページをめくっていると、腕がだるくなってくる。
    重量にして1kg以上、こりゃあ、机なしでは読み続けられない本である。
    もちろん、床に置いて寝ころんでページをめくってもよいが、間違っても中空に持ち上げようとしてはいけない。
    うっかり顔面に落下しようものなら、怪我をするかもしれない。

    さらに気になるのは、本の汚れである。
    この本は布(クロス)張りになっており、布というのは皮脂や汚れを吸い取る性質がある、これ当たり前。
    よく手を洗って読書に臨まないと、本が手ぬぐいのようになってしまう。
    コーティングされた巨大な帯があるので、その部分を持つようにすれば本体に汚れがつきにくいが、そうすると帯で微笑むFiat嬢に汚れがついてしまう。
    かようなことが気になる向きには、トレーシングペーパーなどでカヴァーをすることをお薦めしたい。
    変形サイズゆえ、市販品でぴったりのカヴァーは入手困難と思われる。

    ところで先日、タイ王国を訪問したので、ぜひともFiat嬢に会うべく彼女が連日出演するゴールデン・ドーム・キャバレー・ショウ(といっても飲み屋ではなくシアター)へと向かったのであるが、なんとその日は休み。
    巻末を飾るKukkai嬢、Gun嬢の演技を堪能して帰ってきたのであった。

    果たしてナイロン100%はニュー・ウェイヴの巣窟だったか

    かのニュー・ウェイヴ喫茶「NYLON100%」に関する400ページにも及ぶ著作が発表された。
    まだ読んではいないが、平沢進インタヴュー掲載ということで紹介する。

    NYLON100%
    80年代渋谷発ポップ・カルチャーの源流

    NYLON100%

    ばるぼら 著
    100%Project 監修
    2008年7月23日発売 (2008年8月1日発行)
    アスペクト
    2520円
    www.aspect.co.jp/np/details.do?goods_id=1073

    実はわたし、ナイロン100%へ行ったことがありません。
    ついでに言うと、ピテカントロプスやツバキハウスにも行ったことありません。
    なんかこう、オシャレ人種の巣窟ってイメージがあって、気後れしたんだな。
    将来こんな職業に就くとわかっていれば、話の種に行っておけばよかったと思うのだが、当時はどうもそいいうのは違うんじゃないかと、距離を置いていたのだ。
    岡崎京子『東京ガールズブラボー』の主人公のように、くったくなくミーハーに楽しめたらよかったのだけど、頭でっかちに無駄に屈折していたのですね、ああ恥ずかしい。
    そういや、ツバキハウスはキャバレー・ヴォルテールのライヴに行くつもりでチケットも買っていたのだけど、予定が狂っていけなかったんだな。
    縁がなかったのだと諦めよう。

    さて、平沢進ナイロン100%にまつわるエピソードを語る、であるが、これがなかなか興味深い。
    (本は読んでないが、平沢進の項だけ読んでいる)
    自分的には新事実発見なのである。
    まず、P-MODELのレコード・デビュー前のライヴをおさらい。

    1979年
    03/16 下北沢ロフト(デビュー・ライヴ)
    04/01 吉祥寺・DACスタジオ801
    05/02 渋谷・ワルツ 共演:ヒカシュー
    05/26 渋谷・エピキュラス 共演:ヒカシュー(巻上公一のサイトには「渋谷ジァンジァン」とある)

    今回のインタヴューによると、3月16日の下北ロフトと5月2日のワルツの間に、P-MODELはエピキュラスでもライヴをしているのである。
    これはシンセサイザー教室がらみのイヴェント(エピキュラスはヤマハのスタジオ)でのライヴだったらしいが、これまで記録には残っていなかった新事実である。
    このライヴが終わったあとに平沢進はナイロンでヒカシューのテープを聴かせてもらったらしいが、巻上サイトによると、ヒカシューは79年の3月3日にデモ・テープの録音を行い、4月第3日曜から「週一ナイロン」でライヴをやっていたそうだから、3月〜4月ころナイロンにヒカシューのテープがあって当然であり、確かに平沢進の記憶と符合する。
    www.makigami.com/jbio.html

    また、これまでP-MODELがナイロンでライヴを行ったという記録は発見されていないのだが、平沢進の記憶によると、間違いなくP-MODELは1度だけナイロンでライヴをやっているそうである。
    そのあたりのディテイルもこの単行本には語られているので、興味のある方は読んでいただきたい。
    いや、平沢インタヴューだけでなく、錚々たる面々の証言集となっているので、平沢進抜きでもぜひ(笑)。

    テトラグラマトンは美味しいか(3)

    いい加減、思いつきのタイトルはやめたい今日このごろ。
    昨日はグラマーなテトラのサンプルCDが届いた。
    まずは前回の訂正。

    > (デストローイとか言ってるようです)

    ぜんぜん言ってませんでした。
    空耳現象です。

    > ジャケットを見て「ASHURA CLOCK」「LAYER-GREEN」を思い出したひとも多いのではないか。

    印を結んでいるわけではなかった。
    小さなジャケット写真ではなく、実物を見るとよくわかるが、東洋(仏教)と西洋(キリスト教)の「合掌」を重ねているのである。
    平沢進とリッカルド・ブレットのユニットを象徴しているのであろう。
    ちなみに、表現に困ってちょっと検索してみたら、キリスト教でも指を折り曲げて手を組む合掌だけでなく、指先まで掌をぴったり合わせる、仏教的な合掌ポーズもとるのだとか。

    似てると言えば、実物を見るとわかるが、P-MODELのアルバム『P-MODEL』のほうがよっぽど似てるかも。
    26本対18本だけど(笑)。

    裏ジャケットの合成2ショットもなかなか大まじめで笑えていい。
    ま、これは購入者のお楽しみということで。

    さて、サウンドですが、MP3で聴いた時と印象が大きく異なりはしなかったのだが、ヘッドフォンで聴くより、スピーカの前で大音量で聴くほうが向いているように思う。
    そのほうが、エレクトリックで突き刺さる音と、シンフォニックなサウンド広がりの両方を楽しめると思う。
    もっとも、ヘッドフォンといっても、すんばらしい専用アンプとハイエンドなヘッドフォンの組み合わせなら話は別だろうけど。
    PCやMP3プレーヤで聴く場合と比べた話ね。

    デス・メタルとかゴシック・メタルとかいっても、こういうサウンドなら、インダストリアルとかノイズとかが好きなひともイケるのではないか。
    例が古くて恐縮だが、初期のキャバレエ・ヴォルテイルとかさ、ノイバウテンとか、通じるものがある。
    平沢進がやっている以上、どうしてもプログレとニュー・ウェイヴの要素は入ってくるわけだけど、先鋭的なハード・ロックからも影響を受けていることを思い出したりもするサウンドであります。

    まずはこちらのサンプルで試聴してみてください。

    tetragrammaton

    Tetragrammaton(テトラグラマトン)
    Susumu Hirasawa+InhVmaN(インヒューマン)

    2008年6月25日発売
    ケイオスユニオン(TESLAKITE)
    CHTE-0043
    1575円

    平沢進: Composition, Sub Vocal & Instruments
    Riccardo Brett(リッカルド・ブレット): Lyrics, Melodys & Vocal

    テトラグラマトンは美味しいか(2)

    Tetragrammaton(テトラグラマトン)
    Susumu Hirasawa+InhVmaN(インヒューマン)

    tetra

    2008年6月25日発売
    ケイオスユニオン(TESLAKITE)
    CHTE-0043
    1575円

    平沢進: Composition, Sub Vocal & Instruments
    Riccardo Brett(リッカルド・ブレット): Lyrics, Melodys & Vocal

    第1回試聴実況中継メモ

    01:Pan Daimon Aeon
    初期旬ぽいというかフリッパトロニクスぽいギターを重ねたループから始まり、遠くからアジアンなコーラスがかすかに聞こえてくる。
    イントロだけ聴けば、もろ平沢進なわけだが、そこに語りかけるように、おごそかにデスなヴォーカルがからんでくる。
    (デストローイとか言ってるようです)
    重厚なストリングスと壮大な聖歌隊的コーラスがからみ一気に盛り上げる。
    ハープと声帯破壊ヴォイスの取り合わせの妙。
    ギターのループって、やっぱり気持ちいい。

    02:Tetragrammaton
    エレクトリックなベースにからんで性急なリズムを刻むストリングス。
    『オーガン』のサウンドトラックを思わせるイントロにリッカルド・ブレットのシャウト、しゃんしゃん追い立てる鈴の音が被さってくる。
    お約束のパイプオルガンがゴシックなムードを盛り上げる。
    遠くから平沢ヴォイスと思われるコーラス。
    これでもかと一気に畳みかける平沢お得意のデストロイ・ギター。
    ソロよりもどっちかといえばP-MODELっぽい。
    「 MONSTER A GO GO」のデス・ヴァージョンと勝手に呼んでいる。
    さすがにタイトル・チューンだけあって、もっとも派手なナンバー。

    03:No Mourn…
    声ネタを重ねた後期旬ぽい浮遊感のあるサウンドに弩級の破壊音が重なる。
    超低音の呪詛ヴォイスにオーボエかなんかの管がからんで不安定感をいや増す。
    重なるストリングスとティンパニの連打が論理テノールか白色彗星でも現れそうなダーク度を上げる。
    『ベルセルク』っぽいと言えば話が早いのか。
    no mourn というより、mournな感じで不穏な余韻を残して終わる。

    これはMP3で聴いた第1印象であり、CDでじっくり聴き込むとまた印象は変わるでしょう。
    ところで、ジャケットを見て「ASHURA CLOCK」「LAYER-GREEN」を思い出したひとも多いのではないか。

    テトラグラマトンは美味しいか

    ニュースにも書いたが、イタリアのゴシック・メタル・バンド InhVmaN のヴォーカル Riccardo Brett と平沢進のユニットによるシングル「Tetragrammaton(テトラグラマトン)」が6/25にリリースされる。
    うっかり忘れそうになったが、もう2週間である。
    noroom.susumuhirasawa.com/modules/info/index.php?page=article&storyid=117

    もともとクラシック、プログレッシヴ・ロック、ハード・ロック(ヘヴィ・メタル)といったジャンルの音楽は集合が重なっているし、サスペリア(ゴブリン)の昔から、プログレとゴシック・ホラーは相性はいい。
    故に平沢サウンドもゴシック・メタルと相性ばっちり。
    「祖父なる風」「高貴な城」あたりの高揚感はいかにもデス・メタルのひとが好きになりそうなサウンドだ。
    ただ、聴く前はキング・クリムゾンの『the construKction of light』あたりを勝手に想像していたのが、そういうわけでもない。
    「エレクトロ・ダーク・シンフォニー」とはよく言ったものである。
    詳報はまた後日。

    春の新譜と旧譜

    春ですね。

    某サイトの動作検証用に自サイトにブログモジュールを導入したので、 ちょっと書いてみようと思います。
    あくまでテスト用なので継続して書くかどうかわからないし、予告なく廃止するかもしれません。

    今月はCDを買ったり貰ったりすることが多かった。
    事務所がサンプル盤のCDやテープで溢れかえっていたのも、数年前までのこと。
    今ではすっかり音楽関係の仕事をしなくなってしまったので、サンプル盤が送られてくることもほとんどなくなった。
    まあ、もともとサンプル盤のほとんどは廃棄物になる運命で、だからこそ音楽関係の仕事をしなくなったのだからいいのだけど。
    CDを買うこと自体も少なくってしまったので、今月のようなのは珍しい。

    まだそれぞれ1〜2回しか聴いてないけど、雑感など。

    ●生きること / ヒカシュー

    四本淑三のサイトで紹介されていたので、巻上サイトで通販を申し込んだ。
    www.gnarbs.com/?p=158
    www.makigami.com/

    2008年4月25日発売ではあるが、巻上サイトの通販だと早く届くかも、という話だったが、確かに1週間早い4/18には届いた。
    レコード店への配慮なんかしなくていーもんね的売り方。

    ヒカシューは、フリー・ジャズみたいになってから、疎遠になってしまって、新譜を聴くのは『あっちの目こっちの目』(1993.10.25)以来である。
    とか思ったら、その間に出た純粋な新譜は『転々』(2006.10.1)だけらしい。
    セルフカバーとかベストとか発掘音源とかはあるにしろ『転々』を買えばオリジナル・アルバムはコンプリートだ(笑)。
    ヒカシューもいろいろだったんだなあ。

    でもって、新譜『生きること』ですが、1周して初期のテイストに戻った…わけではないが、好きなサウンドである。
    『転々』も買ってみようかな。
    シングルにしただけあって、やっぱ「入念」はアルバム中もっとも「よくできている」曲ですね。
    古い曲も入っているようで、いったいつ作られた曲かはわからないけど「ベトベト」という「プヨプヨ」「ドロドロ」みたいなタイトルの曲もあって、これは珍しく政治ネタっぽいフレーズが随所にあり、巻上公一がどうも怒ってるっぽい。
    もしかして、イラク戦争のころの歌なのかと思ったりして。

    ●入念 / ヒカシュー

    『生きること』の先行シングル。
    アルバムとシングルの両方を申し込んだのにアルバムの料金しか請求が来なかったのでおかしいなと思って問い合わせたら、巻上公一本人から返信が来た。
    名乗らなくてもいいのに(笑)。

    3曲中2曲はヴァージョン違いがアルバムに収録されているが「カレー三昧」というアルバム未収録曲に魅かれて一緒に申し込んだ(笑)

    ●Rekonnekted Extension Kit:001 / 4-D mode1

    中野で取材があったので、メカノへ寄ってみた。
    でもって、絶賛発売中のコレを買ってみた。
    エンハンストCD仕様というのを知らずに、4曲目が再生できねー、CD-Rだからか、とか思ってしまいました。
    データはまだ聴いてません。

    1曲目のイントロからして、めちゃくちゃ心地よいです。
    エンドレスで流したい感じ。
    インスト版が欲しいなあ。
    www.4dmode1.jp/

    ●NEU! / ノイ!

    クラウス・ディンガー死亡(2008年3月21日-享年61)記念買い。
    こんどメカノへ行ったら、ラ・デュッセルドルフも買おうか。
    こうやって、アナログやテープでしか持っていない音源、当時は買わなかった音源をメカノで「ついで買い」しているのだ。

    あ、中野店長情報によると、DEVOが来日公演するらしい。
    行こうかな、やめようかな。
    (どっちなんだ)

    ●Big Brother – 可逆的分離態様 / 核P-MODEL

    思い切りモズライトの試し弾きをしてみたかったんだろうな、と想像。
    オリジナル作品では、節操を求められるので(笑)。
    中野さんのおかげで無節操かつ野放図な平沢進を聴けました。

    そういえば、核P-MODELのレヴューなんか書いたっけ? と気になって自分のサイトを探索したら、当時のBBSにシリーズ書き込みをしていたのを発掘した。

    ●PHONON2550 LIVE / 平沢進

    まだ1回しか聴いてないけど、うるさいよ(笑)。
    やかましいCDです。
    ライヴ未経験のリスナーはびっくりするだろうなあ。

    このタイ歴ライヴはシリーズ化するらしく、今秋が楽しみでありますが、本物のタイでタイ歴を感じてみたくもあります。

    ●J-POP / 電気グルーヴ

    散発的にライヴをやったり企画モノを出したりと活動していたようだけど、これで本格的に活動再開となったのだろうか。
    『VOXXX』までは某誌で担当してたのだが、今は普通のお客さんより情報を持ってません。
    8年ぶりのオリジナル・アルバムになるわけね。

    そんなに驚きのあるサウンドではないけれど、キックの音圧が強いのでスピーカ再生時は近所迷惑にならないよう配慮したい。
    テクノとテクノポップと歌謡曲の要素が電気グルーヴらしく混じり合ってって、なるほどの「J-POP」ぶりである。
    卓球としては、先鋭的なことや趣味的なことはソロでもほかのプロジェクトでもできるし、やろうと思えばなんでも自由にできるポジションにいるわけで、電気は瀧なしではありえないこと、もしくは自分にとっての「王道」を表現する場、と考えているなんじゃなかろうかと。
    電気グルーヴを10年近く取材した身としては、いかに卓球が瀧LOVEで、瀧あっての電気グルーヴであるか、よ〜くわかってるだけに、そう思います。

    相変わらずアート・ワークがいい。
    今回はグラフィック・デザインも田中秀幸なのか。
    や、ヘンな合成(変形)写真とかはわりかしどうでもよくて、ブックレットの紙の選び方とかフォントの扱い方とか、スミと特色金の使い方とか、いいなあと思って。

    CCCDだった卓球ソロとかあんまし聴いてなかったけど、改めて聴いてみようかと思ったりする春です。