インタラクティヴ・ライヴ「ZCON」終了から1週間後の備忘録。
情報過多のライヴであったので、むしろ情報を遮断して記憶に残ったエッセンスのみ書き留めておく。
アーカイヴも観ていないので、すべては個人的な記憶世界のできごとである。
抑圧者(アヨカヨ)による被抑圧者(アンバニ)搾取の歴史と偽史の創造。
抑圧者滅亡後も残った外在的抑圧機構(ZCON)と内在的抑圧機構(ZCONITE)により被抑圧者は奴隷道徳から脱することができない。
それにより被抑圧者の人格は分裂し、このままでは残された被抑圧者(の世界)も滅んでしまう。
別のタイムラインにパラレルに存在する平沢進(改訂評議会長)と、過去のタイムラインに存在する平沢進(nGIAP)が世界救済へ向かう。
というのが前提となる物語の骨子。
しかしながら、平沢自身も認めるように、物語描写における情報整理が下手である。
ただでさえ隠喩に満ちた物語描写を好むうえに「語りすぎ」なのである。
音楽においてはあれほどに情報整理に長けているのに、映像においては「すべてを観せたがる」とは今 敏の名言。
情報の奔流によって、正直なところ、第1公演はライヴを楽しむどころではなかった。
「ZCON」では文字情報による説明からトーク映像(動画)による説明に変わったのだが、これはインタラクティヴ・ライヴ史におけるひとつのエポックである。
舞台前の紗幕に映像を投映するスタイルから舞台後方のモニタ映像に変更された「ノモノスとイミューム」もひとつのエポックだったが、インタラクティヴのスタイルは常に更新される。
ただ、しゃべり映像が長く、前半は楽曲を聴いてるより話を聴いてるようなコンサートになってしまった。
MCの長いフォーク・シンガーを笑えない。
どうせ動画に字幕を入れるくらいなら、従来通り演奏中に文字情報を流してもよかったのではないか。
あ、でも、それでは背景となるCG制作が大変!!
「ノモノスとイミューム」から実写が増えた理由もそうした点にあるのだろう。
※このあたり『音のみぞ』2号のインタラクティヴ特集(大和久勝インタヴューとジフさんの解説)はたいへんよいサブテキストになると思うのだが、残念ながら完売だ。
「ノモノスとイミューム」から「スター・システム」を採用したが、こんどの「ZCON」もでまたAstro-Ho!やΣ-12といったキャラクタが登場し、オールスター・キャストで贈る総集篇めいている。
nGIAPと改訂評議会長という(いつもの)2役の平沢に加え、シトリン(オリモマサミ)とルビイ(ナカム ラルビイ)という新キャラクタ。
さらには舞台上の天候技師(ストリングスあてぶり要員)としての会人2名登場はほんとうに必要だったでしょうか。
ただでさえ情報過多であるのだから、基本的に舞台上は平沢進ひとりでシンプルにしてもよかったのではないか。
会人には通常のライヴでもっとバンド的に演奏していただきたいのである。
すべてが過剰で押し寄せる情報の洪水。
特に第1公演はまだ情報が頭に入ってないので、中盤の「幽霊列車」からようやく楽曲と映像のカタルシス(カサンドラ・クロス!!)を得られるようになった。
第1公演は結果的に物語展開としても俗に言う「(超)バッド・エンディング」であんまりである。
「インタラクティヴ・ライヴ初演はゲネプロ」の法則はまだ活きているのか。
もちろん、全観客が全公演を観るわけではないし、どのエンディングであっても別の世界観を提示して終わるというのがインタラクティヴ・ライヴではある。
いわゆるグッド・エンディングが必ずしも目標なのではない、と平沢進も言っている。
とはいえ在宅・会場のオーディエンスが「正解」を求めて3公演を試行錯誤していくという盛り上がりは「点呼する惑星」以来だったのではないか。
「ノモノスとイミューム」からは在宅オーディエンスの物語進行への干渉度合いがぐっと低くなったけれども、その意味では「点呼する惑星」あたりの手法に回帰したと言えるかもしれない。
トゥジャリットという言葉を思い出すのに3曲分を費やすほどにはヤキが回ってはいるが、そのあたりの記憶がうっすら蘇ってくる。
1回か2回でいいかと思ったけど、3回観ることで得られるオーディエンス側の達成感というのも、やはりある。
裏方としては体験していたけれども、客席側でのこの体験は初めてだ。
在宅オーディエンス(天候技師)の作業は単純でかつてのように難問奇問を解いていくわけではなく、作業場用(進行確認用)のライヴ映像もなくなったようだが、会場で観るぶんには在宅オーディエンスの作業結果はスリリングで、歓声をもって迎えられた。
「ZCON」で「在宅オーディエンス一覧スクロール」はなくなってしまったけれども、もしあったならどんだけ長かったろう。
あれ、けっこう感動するんだよね。
一方、会場での分岐選択の難易度は高かったのではないか。
「歴史書の書き換え」は、必ずしも平沢進的世界観に合いそうな文章を選べばよいというわけでなく、ある分岐では不正解だったものが別の分岐では正解になる。
「わたしの言うことに従え」という意味ではない、と平沢進が言っているようである。
第2公演までは、世界の真実を知るオレ様が「オマエ」の呪縛を解いてやるという上から目線の物語と思われたが、第3公演で実は同一人物内のできごとだったように物語は展開する。
捏造された歴史からの解放、というのも、実は自己解放のことと解釈可能である。
ライヴのキイ・ヴィジュアルが公開された時に、なんでああいうプリミティヴなイメージなんだろと思っていたのだけど、小屋はZCON格納庫で、ふたりのキャラは「保護者」と知る。
第3公演のクライマックスでは、悪役たる「保護者」は超自我(もしくは太母や原両親)であると示唆された。
アフリカっぽいプリミティヴな仮面を被った「保護者」はぜんぜん抑圧者らしくないじゃないかと思っていたのだが、あれが内面的な人格統合の話だとするならば、おさまりはよい。
nGIAPのアニマたるシトリンとルビイの統合と「親殺し(母殺し・父殺し)」による「全き人格」の回復。
人格回復がトリガーとなり、自然と呼応する失われた音楽も復活する。
歴史の修復
人格の回復
音楽の復権
このみっつがセットになった物語であったわけだ。
この「英雄」的冒険を成し遂げたのは舞台上の平沢進なのだろうか。
あー複雑。
しかしながら、このインタラクティヴ・ライヴが特殊であったのは、音楽的感動でも映像的感動でもなく「情報的感動」であったころである。
確かに「還弦アート・ブラインド(Lonia)」「還弦LEAK」は盛り上がったし、福間創追悼の「還弦ASHURA CLOCK」がクライマックスのキイに使われたのは感動した。
確かにナカム ラルビイのサックスは鳴り響き、オリモマサミのコーラスは会場を包んだ。
けれども、音楽的感動という肉体的カタルシスではない。
少なくともわたしにとってはそうではなかった。
そこにその曲が配置されたという「情報的感動」なのだ。
過剰な情報が押し寄せることによる感動。
もちろん音楽も映像もそれ自体が情報には違いないのだが、文字情報や音声情報といった通常のコンサートではありえない量の情報を浴び、ストーリ解釈や分岐の選択といった思考を迫られることによる感動なのである。
純音楽的には邪道とも言える、音楽以外の情報を体験することにより脳内で構成される感動だ。
しかし、そんなものを構築して提供する人間はほかにいないではないか。
実を言うといろんな意味で「これが最後かもしれない」と思って3公演に足を運んだのである。
終わってみるといろんな意味で「これが最後ではないかもしれない」となった。
2022年4月3日(4月4日追記) 高橋かしこ
以下は自分向け資料。
2022/03/25
東京ガーデンシアター
INTERACTIVE LIVE SHOW 2022
ZCON(ジーコン)
ゲスト: オリモマサミ、ナカムラ ルビイ、会人SSHO, 会人TAZZ
●演奏曲目
01: COLD SONG
02: TRAVELATOR
03: LANDING
HOT POINT
04: 消えるTOPIA
05: クオリア塔(LG-G ver?)
HOT POINT
06: 燃える花の隊列
07: 転倒する男
08: 幽霊列車
HOT POINT
09: 論理的同人の認知的別世界
10: BEACON(中断)
11: TIMELINEの終わり
12: ASHURA CLOCK(還弦ver.)
13: BEACON
14: 記憶のBEACON
2022/03/26 (DAY)
東京ガーデンシアター
INTERACTIVE LIVE SHOW 2022
ZCON(ジーコン)
ゲスト: オリモマサミ、ナカムラ ルビイ、会人SSHO, 会人TAZZ
●演奏曲目
01: COLD SONG
02: TRAVELATOR
03: LANDING
HOT POINT
04: 燃える花の隊列
05: 転倒する男
HOT POINT
06: アート・ブラインド(還弦ver.)
07: 消えるTOPIA
08: 幽霊列車
HOT POINT
09: 論理的同人の認知的別世界
10: BEACON(中断)
11: TIMELINEの終わり
12: ASHURA CLOCK(還弦ver.)
13: BEACON
14: 記憶のBEACON
2022/03/26 (NIGHT)
東京ガーデンシアター
INTERACTIVE LIVE SHOW 2022
ZCON(ジーコン)
ゲスト: オリモマサミ、ナカムラ ルビイ、会人SSHO, 会人TAZZ
●演奏曲目
01: COLD SONG
02: TRAVELATOR
03: LANDING
HOT POINT
04: 燃える花の隊列
05: 転倒する男
HOT POINT
06: 消えるTOPIA
07: 幽霊列車
08: LEAK(還弦ver.)
HOT POINT
09: 論理的同人の認知的別世界
10: BEACON(中断)
11: TIMELINEの終わり
12: ASHURA CLOCK(還弦ver.)
13: BEACON
14: 記憶のBEACON
参考サイト:
平沢進公式サイト
www.susumuhirasawa.online/2022zcon
ひ組
higumi.com/