フジロックも2回めなので取り立てて書くことはない。
などというと早くも通気取りで剣呑だが、東京から新幹線に乗って1時間半で越後湯沢、そこからシャトルバスに乗り換え30分で苗場である。実はけっこう近いことが前回わかった。
ことしはバス代が往復500円から1000円へ値上がりになったが、感染症対策で乗車率を抑えてあり(乗った車両は3割程度)すぐに出発する。
前回のようにさんざん待たされた挙句にギューギュー詰めということはなく快適。
心配だったのは天候で、まさに「山の天気は変わりやすい」を実感することになった。
事前に見ていた天気予報サイトの情報は毎日よく変わるので予測を立てにくく、実際の現地の天候もまさに「降ったりやんだり晴れたり曇ったり」で、2回ほど移動中に短期集中で降られた。
20年の時を経て納戸から出された「論理空軍ウィンドブレイカー」が初めて役に立ったが、レインパンツなるものは結局使わず終いであった。
例年では、各ステージのトリ(未だヘッドライナーという呼称になじまない)は時間をずらしてあるようなのだが、ことしは感染症対策で集中を避けるためか、グリーンの電気グルーヴ(21:40〜22:50予定)とホワイトの平沢進(21:00〜22:30)はほぼ丸かぶりである。ステージ間の移動を考えると平沢後のDGはムリか。
などと思いつつ、雨がやむのを見計らい、ホテルからホワイトの山塚アイ(19:10〜20:00)へと向かう。
山際が山向こうの雷で光っている。美しいがこちらも土砂降りになりそうで不穏である。演奏のせいか遠いせいか、雷鳴はほとんど聞こえない。
途中でカレーを飲み、ホワイトの忌野清志郎トリビュートで池畑潤二&花田裕之の演奏に見入っていたため、着いた時には山塚アイは終わっていた。
スタンディング・エリア外で椅子に座って開演を待っていたが、しとしとと少し降ってきたので椅子をたたんでスタンディング・エリアへ。
感染症対策の立ち位置マークは1m弱の間隔か。後方であったせいか、終演まで周囲の観客はまばらであった。
ホワイトの観客エリアは例年だとキャパシティは15000人らしいが(どこまでを観客エリアにしているのかよくわからない)ことしは見た目は大きなライヴ・ハウス程度で、せいぜいキャパ5000人くらいなのではないか(あくまで目視)。それでも全体が混み合うほどではない。スタンディング・エリア外はさらにまばらだ。
開演時間にはすっかり雨はあがっていた。
2021/08/22
平沢進 + 会人
脱出系亞種音
FUJIROCK FESTIVAL’21
苗場スキー場特設会場
WHITE STAGE 21:00〜22:30
サポート: 会人SSHO+会人TAZZ
ゲスト: ユージ・レルレ・カワグチ(#STDRUMS)
01: ZCONITE 〜 COLD SONG(テスラ・コイル)
02: ENOLA
03: BEACON
04: Solid air
05: TRAVELATOR
06: 幽霊列車
07: アヴァター・アローン
08: 消えるTOPIA
09: アンチモネシア(テスラ・コイル)
10: HOLLAND ELEMENT
11: パレード(テスラ・コイル)
12: 夢みる機械
13: 論理的同人の認知的別世界
14: Big Brother(可逆的分離態様?)
15: 救済の技法
16: TIMELINEの終わり
EN
17: 庭師KING
新譜とP-MODELナンバーを多めにやるだろうとは思っていたが、まさかオープニングがテスラ・コイル・ヴァージョンの「COLD SONG」とは意表を突かれた。
広いステージに置かれた Musical Tesla Coil Zeusaphone Z-60 も後方からでは小さく見えるものだな。
10年ぶりの「Solid air」は還弦主義ヴァージョンではない。「カナリアの籠」から数えてどんだけヴァージョンあるんだという変遷だが、ここにきてまたニュー・アレンジ。
ギターから音が出ず、マシン・トラブルでノイズの嵐となったが、これが最高によい。ずっとこのノイズに打ちのめされていたいくらいだ。
そしてニュー・パート入りの「HOLLAND ELEMENT」には39年前の日仏会館でのプロトタイプからから聴いてきた人間でも驚いた。
「Solid air」「HOLLAND ELEMENT」の2曲(83年以降は加えて「ATOM-SIBERIA」の3曲)は80年代P-MODELでライヴを殺気立たせる定番曲であった。
本気だ。トラブルへの苛立ちもあったろうが、久しぶりに平沢進から殺気を感じた。
まさに「脱出系亞種音」というタイトルが示す通りの選曲。ディストピアからの離脱。狂気からの正気の脱出。
ただ、意外だったのは、支持者のみを載せて地球を脱出するロケット(SF的イメージ)ではなく、詰め込めるだけ詰め込むノアの方舟になりたいのではないかということ。
ノアだって嘲笑されたというではないか。そういえば「羊」など、キリスト教的比喩が近ごろ目に付く。
『BEACON』のレヴューで「救済のない技法」と書いたけれども、選曲には「救済の技法」があり「庭師KING」もある。
リスナーの意識にドリルを打ち込み、破壊しながらも、覚醒と新世界への離脱を願っているのではないか。
それがたとえ大きなお世話であっても。
『BEACON』のレヴューではまた
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ここから「ネオ・ディストピア3部作(消えるTOPIA3部作)」が始まって、10年で3枚出したりしたらすごい。
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とも書いたけれど、ここから「脱ディストピア3部作(人間回復3部作)」が始まることとなるのではないか。
予定より5分以上早く平沢進は終了したので、急ぎグリーンの電気グルーヴへ。「MAN HUMAN」か。非常に音がよい。PAのせいかエンジニアリングのせいか会場のせいかわからないが、ホワイトより遥かに音の広がりがよく迫力がある。
最後方から一面の観客を観ると、急にどメジャーなコンサートへ来たような気分になる。妙な表現だが、フジロック内の暗い閉鎖空間から急に眩しい屋外へ出てきたような感じである。
といっても、例年4万人以上のキャパシティとのことだが、ことしは1万人もいない感じ(あくまで目視)。後日発表されたこの日の入場者数は9300人とのことだったので、グリーンから流れてきた客を合わせてもそのくらいであったろう。
10分オーヴァーの23時くらいに終了したので「Baby’s on fire」から「富士山」まで30分は観ることができた。
レッド・マーキーでまりんのDJを聴いて締め。
最初は閑散としていてびっくりしたが、すぐにDG帰りがどやどやと入ってきた。
「FLASHBACK DISCO」もかけたりするサーヴィス。
2000年くらいまで音楽情報誌で電気グルーヴの担当ライターをしていたことがあるので、まりん在籍時の電気グルーヴにはけっこう思い入れがあったりするのだ。
覚えているのはこんなところである。
備忘録といってもハナから覚えてないことが多いので、備忘録ですらないか。
2021/08/29 高橋かしこ