平沢進のソロ・デビュー25周年を記念したポリドール(現ユニバーサル ミュージック)時代のリイシュー企画「Project Archetype」の第1弾が9月24日にリリース。リマスタリングされたオリジナル・アルバム3作『時空の水』『サイエンスの幽霊』『ヴァーチュアル・ラビット』に加えて、2枚組のコンピレイション『Archetype | 1989-1995 Polydor years of Hirasawa』も同時リリースとなった。詳細はこちら。
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blogs.yahoo.co.jp/adoopt_s/64973735.html
当時の担当ディレクターで、現在はフリーランスの音楽プロデューサーとして活躍する竹内修とともに、わたしも一応「監修」として参加しており、プロジェクトの詳細は竹内さんのブログに記されている。
wilsonicjournal.blogspot.jp/2014/09/wilsonic-works-41.html
リイシュー全体の方向性にアイディアや意見を出したり、編集盤の内容を考えたり、紙モノの編集者的作業といったあたりが主な仕事で、ライナーノーツもいくつか書かせていただいた。ライナーノーツは、シリーズ全体の「サウンド解説」をサウンド&レコーディング・マガジンの國崎晋が担当し、作品の背景や作品への個人的な思いなどを作品ごとに違うライターに書き分けてもらった。1stと4thはわたし、2ndはプロデューサーの神尾(有島)明朗、3rdはMecanoの中野泰博、5thはカメラマンの生井秀樹、となっている。
わたしのライナーノーツはいろいろと試行錯誤したものの結局は「いつもの感じ」になってしまったが、國崎さんの「サウンド解説」が補って余りある内容なのでご安心いただきたい。また、ほかの方々も方向性がそれぞれ異なる文章になっていて、よいバランスになったのではないかと思う。わたしの仕事は、ライターとしてはともかく、編集者としてはよいものになったのではないかと、その点は自画自賛している。
シリーズ全体のリマスタリングは鎮西正憲・監修。リマスタリングによる音質の変化がいちばんわかりやすいのは『ヴァーチュアル・ラビット』あたりだろうか。生の弦楽器を使用した「バンディリア旅行団」は、マスタリング・スタジオで聴いたマスター音源の感動がそのまま収録されたような感動がある。國崎さんはリマスタリングによって1番好きな『AURORA』がもっと好きになり、発表当時は動揺した『Sim City』が好きになったとのこと。編集盤『Archetype』で全リイシューを「味見」するのもよいだろう。その仕上がりについては下記レヴューを参照されたい。
kissa-p.at.webry.info/201409/article_1.html
コンピレイション『Archetype | 1989-1995 Polydor years of Hirasawa』は、2枚組のうちの1枚はいわゆるベスト・アルバムで、もう1枚はシングル曲とオリジナル・アルバム未収録曲の詰め合わせとなっている。アルバムの構成は、竹内さんと高橋とで行った。基本的な選曲を高橋が行い、竹内さんが曲順を考え、バランスを考慮して選曲を補完してくれた。概ねこんなもので納得していただけるのではないかとは思う一方、個人個人で「必須アイテム」は異なるだろうし、なぜこれが入っていてあれが入っていないのか、という声も聞こえてきそうな気もする。ベスト・アルバムは「 A Young Person’s Guide to Early Hirasawa Works」という側面もあるので、選曲では敢えて「ダーク・サイド・オブ・ヒラサワ」はといった趣の作品は外しているが、この本作を入り口にして平沢進を聴き始めたリスナーは、ぜひオリジナル・アルバムで奥深い平沢ワールドに迷い込んでいって欲しい。
というのは『Archetype』のブックレットからの引用・要約だが、ライナーノーツでは高橋が平沢ソロ史を概説したうえで、竹内さんが全曲解説を行っている。これが滅法面白い。レコーディング裏話あり、膝を打つ作品解説あり。担当ディレクターでなくては書けない内容である。
このブックレットやシリーズ全体のアート・ディレクションは中井敏文(ノングラフ/シールズフロア/モノグラム)が行っており、これがまた素晴らしい。『Archetype』ジャケットやブックレットの使用写真はすべて生井さんの撮影で、これまでアーティスト写真やジャケット写真で使用されものやそのアウトテイク、ライヴ写真などだが、カラーや未加工な状態ではほとんど出回っていない写真も多い。中井さんが得意とするロゴタイプを大胆にあしらったジャケットはカッコよく、twitterなどの反応を見るにこれも大好評なようで、編集担当としては安堵している。デザインや写真のセレクトにアドヴァイスをくれた内輪のスタッフもありがとう。
各作品についてはこれまでにいろんな局面で書いてきたし、ライナーノーツでも書き尽くしたので、もう特に書くことはないのだが、プロジェクト名についてちょっとだけ書いておく。Project Archetype はもちろん「Archetype Engine」からの拝借した単語だが、ポリドール時代はユング心理学でいうところの元型イメージを扱った作品が多いことも理由となっている。またポリドール時代には平沢作品のパターンのようなものが出揃い、作品の原型のようなものができあがった時期でもある。元型も原型も英語では Archetype になるので、プロジェクト名としてはよいのではないかと考えた次第。ライナーノーツやオビの煽り文句などでは「元型ポップ」という造語を敢えて多用してみた。
担当する作業はほぼ終了したので、なんだかプロジェクト全体が終了したような気がするけれども、11月5日には第2弾リリースとして、残りのオリジナル・アルバム2枚、ライヴ作品『error CD+DVD(仮)』およびインストゥルメンタル集『Symphonic Code(仮)』(詳細は週明けあたり発表予定)が控えている。まだまだこれからである。
そういえばきょう、別件でちょっと調べものをしていて、たまたまポリドール時代の作品リリース当時に自分が書いた原稿を四半世紀前ぶりに目にする機会があったのだが、意外といいこと言っていた(笑)。「初期3部作」という言葉は『ピコ』2号(93年)のP-MODEL特集で使った記憶はあったのだが、なんと『ヴァーチュアル・ラビット』のレヴュー(91年)ですでに「ソロ3部作完結篇」という表現をしていた。作品リリース時にそういう認識があったというのは意外。
『error CD』のレヴューではこんなことを書いていた。
「10年後には素晴らしいタイム・マシンになることだろう」
10年前どころか25年前に行けるタイム・マシンになってしまったことだよ。