2003年11月ころ、FAMIGA投稿用に書いたインタラクティヴ・ライヴ「Limbo-54」とAMIGAの仕込みに関する発掘原稿です。
2002年3月に始まった仕込みのことから書きはじめ、ようやく2003年4月のライヴ本番の話に至ったようです。
ライヴDVD『LIMBO-54』のブックレット原稿はこの回をもとににしています。
本文のあとにVidiAmigaとについての解説を『来なかった近未来』から引用しておきます。
Interactive Live 2003 への道 — その14 来なかった近未来はやってくるのか篇
2002年3月にメンテナンス計画を立ててから1年(笑)。
2003年3月末にようやく2台のAmiga4000の環境が整いました。
ライヴ初日は4月28日、もう1か月しかありません。
今回のライヴ会場でのコンピュータは以下のような役割分担になっています。
○Amiga-1(PowerTowerA4000/060)
オーサリングおよびアニメーション出力用
○Amiga-2(A4000T/060)
[光の軌跡]用
○Amiga-3(A1200HD/030)
[PhononGrabber]用
Amiga予備: HighFlyerA4000/060, A1200HD/040, A600HD/030
○PC/AT-1(ブックPC/Celeron700MHz)
静止画配信/テキスト配信/Web監視
○PC/AT-2(タワー/Athlon1.8GHz)
DANCER(*1)ハンドル一覧/音声配信/LIMBO-SCOPE(*2)動画配信用
○PC/AT-3(ラップトップ/Celeron300MHz)
LIMBO-SCOPE制御/Web監視
○PC/AT-4(ラップトップ/Crusoe600MHz)
Web監視用
PC/AT予備: ラップトップ/Pentium166MHz
本来、人的にもシステム的にもできるだけシンプルに構成するのが平沢式。
ライヴでこんなにたくさんのコンピュータを使うのは平沢さんの美意識に反することであり、初めてのことです。
しかし、見事なくらい最新のコンピュータは1台もなく、機械自慢にはなりません(笑)。
今回、このように台数を増やして仕事を分散したのは、単純にリスク回避のためです。
かつては2台のAmiga2000だけでライヴを進行したこともありましたが、そうした一極集中型のシステムは効率がいい半面、1台コケるとみなコケる危険性があるわけです。
今回もアニメーションの再生、映像やサウンドの制御といったライヴ全体のオーサリングのほか、観客との「インタラクティヴ」なイヴェントにももちろんAmigaが活躍します。
その一端をご紹介しましょう。
[光の軌跡]
VideoToasterのTrail Effect(光跡がつながるエフェクト)を利用したイヴェント。
観客に光源を渡して観客同志でリレーしてもらい、光源の動きを会場の天井に設置された広角カメラで捉えます。
A4000Tに送られた映像データはVideoToasterでTrail Effectをかけられ、PowerTowerA4000のPARが出力するCGと合成されて会場のスクリーンに投影されます。
観客はスクリーンを見ながらスタート地点からゴールまで、光跡が途切れないよう、またCGで描かれた「爆発物」を避けながら、一筆書きのようにして光跡を描いていきます。
同様のイヴェントは94年の第1回インタラクティブ・ライブの際に準備されていながら、天井カメラの不調で本番では実現しなかったそうです。
今回、難しかったのはカメラと光源の選定。
光源にはある程度の明るさが必要なのですが、電球のように割れたりするものは危険なので使えず、かといって蛍光塗料など畜光タイプのものでは暗いわけです。
化学発光体サイリュームをバルーンに仕込んだものが形状としては理想的だったのですが、実験の結果、暗くて光跡がつながらないことがわかりました。
結局、照明さんや小道具のスタッフが知恵を出し合って「危なくない明るいライト」を作ってくれたのですが、仕様は企業秘密です(笑)。
いえ、秘密というわけでありませんが、今まで書いたパーツをいい按配に組み合わせて器に入れただけです。
カメラはいろいろな種類を映像業者に用意してもらい天井から広いエリアを撮影でき、うまく光源を拾ってくれるカメラを選びました。
ところが、VideoToasterを通すと画像がぐしゃぐしゃになります。
こりゃダメかぁと思ったら、映像業者の方がTBC(TimeBaseCorrector)で調整してくれ
うまくいくようになりました。
VideoToaster自体は特殊な使い方をするわけではないのでセッティングはリハーサル直前に行ったのですが、なぜか肝心のTrail Effectがありません。
どうやらTrail Effectが収録されているのはVideoToasterの3.x系ソフトまでで4.x系には収録されていないようです。
(このあたり間違っていましたら訂正してください、識者の方々)
そんなわけで4.2を3.1にダウングレード(または両方インストール)する必要があるのですが、3.0はFDで45枚もあり、3.1へのアップデータが5枚あります(笑)。
しかも、ディスクが不良というわけでもないのに必ず22枚目でコケる現象に見舞われました。
VideoToasterのFAQサイトにもたくさん載っていますが3.0のインストールディスクはバグがあるそうです。
結局、バックアップしてあったハードディスクのファイルをコピーしてインストールするハメになりました。
4.x系のメディアはCD-ROMでラクなんですけどね。
[Phonon Grabber]
DVカメラで撮影した動画をA1200に接続したVidiAmiga12RTでキャプチャし、Pixoundというソフトでリアルタイムに音へと変換、同時にキャプチャのプレヴュー画面(モノクロ)を会場のスクリーンに投影するというシステムです。
PixoundはAmigaのパブリックスクリーンや各アプリケーションのスクリーン上でマウスポインタが示す位置のRGB情報をサウンドに変換する古〜いソフト。
本来、Pixoundは静止画上でマウスを動かして音階を奏でるソフトですが、Phonon Graberではマウスポインタを固定し、画像のほうを変化させるという逆転の発想で使用しています。
ちなみにPixsoundは現在、Windows用およびMacintosh用のアプリケーション、Webブラウザのプラグインとして提供・販売されています。
(以前はMac用のみでしたが、最近Win用ができたようです)
www.pixound.com/
Phonon Grabberは前回のライヴでFAMIGAの支援プロジェクトが開発したもので、三吉さんが書いてくださったマニュアルは今回、たいへん役立ちました。
アイディアの原型は、平沢さんが「梅津和時の“続々・大仕事”」(92年)というライヴで考案したものの実現しなかったシステムにあります。
ことの顛末は7番会議室「x占拠x : 平沢進の”来なかった近未来”」で書かれていますね。
(ここで「Pix Mate」となっているソフトは、Pixoundの間違いなそうです)
Phonon Grabberいわばその雪辱戦です。
「次のインタラクティブライブで使ってみるか」「観客の動きを音楽に変換するのもおもしろいぞ」と連載では書かれていますが、それが実現したわけです。
Pixound君の近未来はやってきたのです。
さて、ライヴでは前述のようにA1200+VidiAmiga12RTで行ったのですが、リハーサルでは場所を取らないA600でもできないかと試してみました。
しかし、どうにもキャプチャのプレヴュー画面の動きが悪いです。
使えないわけではないのですが、ショウとしては今ひとつ。
やっぱりA600ではダメなのかなぁと諦めたのですが、A1200でやってもうまくいきません。
う〜む。
よっく見ると接続していたのはVidiAmiga12RTではなくVidiAmiga12です。
「RT」がありません(笑)。
VidiAmiga12RTは入力が2系統、VidiAmiga12は1系統という差だけでなくバッファメモリの容量なども違っていたようです。
VidiAmiga12はバックアップ用に用意していたものだったのですが「RT」のあるとなしでは大違いだったようですね。
さて、次回はライヴ本番、1200が暴走します。
*1…DANCER
自宅などの会場外の(まれに客席の)コンピュータからネットワークを通じてコンサートに参加する「在宅オーディエンス」を今回のライヴでは物語の設定上「DANCER」と呼びました。
Webで登録したDANCERのハンドルネーム一覧は会場のスクリーンに投影されるのですが、数百人の名前がスクロールする様はまさに圧巻!!
もちろん登録システムやDANCERの名前をスクロールさせるプログラムはFAMIGA支援プロジェクトのメンバによって作られました。
*2…LIMBO-SCOPE
DANCERたちは、さまざまなトラップが仕掛けられたWeb上の迷路を通り抜け「LIMBO-SCOPE」の「操作室」へと辿り着きます。
LIMBO-SCOPEというのは会場に設置された望遠鏡で、DANCERの指示によって動き、LIMBO-SCOPEが捉えた映像はネットワークを介してDANCERへフィードバックされます。
そのシステムはコンピュータでコントロール可能な望遠鏡DS-115EC(MEADE)とコントローラAutostar#494をベースに作られています。
LIMBO-SCOPEはスクリプト言語Rebolによって制御されますが、ユーザインタフェイスはFAMIGA支援プロジェクトのメンバによって開発されました。
カメラの映像をデジタイズしてAMIGAに取り込み、Pixoundを使って音楽に変換するシステム「Phonon Grabber」は、平沢進のインタラクティヴ・ライヴ「賢者のプロペラ(2000)」「Limbo-54(2003)」で使用された。
LIVE!ではなくパラレル・ポートに接続する Vidi Amiga 24RT (Rombo製) で動画のキャプチャを行った。