平沢進ソロ・デビュー25周年 Project Archetype 第1弾リリース その2

もう書くことないと言いつつ、質問があったりしたので、選曲についてなど。

2枚組『Archetype | 1989-1995 Polydor years of Hirasawa』のDiscそれぞれの性格だが、プロジェクト始動当初はベストとアルバム未収録(レア音源)集という考えであった。しかし、それではDisc1はシングルになっているような代表曲ばかりになってしまうし、絞るのも大変過ぎる、入りきらない。逆にDisc2の収録曲は少ない。というわけで、出したアイディアがDisc2はシングル+アルバム未収録(レア音源)集というもの。これならば、シングル曲はDisc1からはじけるので選曲に余裕が出て苦しくない。

「ハルディン・ホテル」がDisc1にオリジナルが、Disc2にシングルの「Fractal Terrain Track」ヴァージョンが入っているのは、Disc1とDisc2が別テーマのCDであり、ベスト盤もしくは入門盤という性格であるDisc1に「ハルディン・ホテル」のオリジナル・ヴァージョンは欠かせないとの考えから。もちろん、アルバムとシングルとでヴァージョンが同じならDisc2のみに収録していたとは思う。
じゃあ、逆になぜ「バンディリア旅行団」がシングルの「Physical Navigation Version」ヴァージョンしか収録しなかったかというと、ライナーノーツに竹内さんが書いている通り、録音順からいって、実質的にシングル・ヴァージョンのほうがオリジナルであるから。『ヴァーチュアル・ラビット』収録曲は、シングル・ヴァージョンをアルバムに馴染みやすく「大人しく」したヴァージョンだとも言える。シングルのアレンジのままだときっと浮いちゃうんだよね。で、この曲に関してはシングル・ヴァージョンを収録すれば充分かという判断。
ここらへんは竹内さんと高橋とで意見をぶつけて決めております。

ところで、実は「バンディリア旅行団」には、もう1ヴァージョン存在しており、マスターテープを聴いて「なんだこれ」ということになった。頭にクリック音が入っており、商品とは思えない。あとで調べたところ、クリック・ヴァージョンは『デトネイター・オーガン』の製作発表記者会見(1991年3月1日)等で配布されたラフ・ミックスであることが判明した。みんな忘れてるのだ(笑)。

『サイエンスの幽霊』は、シングル収録の「世界タービン」「フィッシュ・ソング」はDisc2に入れることにしたので、Disc1に入れる曲は迷ったのだが、アルバムの性格がよく出ている「テクノの娘」を選んだ。2枚組でなければ「世界タービン」「ロケット」「フィッシュ・ソング」あたりの選曲で、もしかすると「テクノの娘」「夢みる機械」は選外だったかもしれない。

『AURORA』は、高橋案としては「LOVE SONG」「オーロラ」「舵をとれ」の3曲。選曲の基準は、個人的なベストにしてしまうとえらいことになるので、あくまで「入門書」として機能するような、いわゆるキャッチーな曲、アッパーな曲を中心にしようと思ったからだが、竹内さんより全体のバランスや流れを考慮し、また『AURORA』の性格がわかる曲ということで「広場で」が推された。もちろん、異論はない。「舵をとれ」はベルセルク以降のファンを意識しての選曲でもあったが、わたしも次点としては「風の分身」あたりのメロディや歌唱の美しい曲を考えていた。國崎さんも「広場で」は大好きなナンバーに挙げており、正解だったようだ。

意外と困ったのは『Sim City』の選曲で、当初はマストが5曲、次点が3曲あった。自分ではリリース当初の印象から『Sim City』は苦手なアルバムと思っていたのだが、意外にも好きな作品が多かったらしい。先日の國崎さんとのトーク・ライヴでも力説したが『Sim City』は物議を醸した作品で、拒否反応を示したり、離れていったリスナーも少なくなく、ここでソロ時代最初のの「リスナー入れ替え」が起こったのである。
最終的には、タイトル曲「Sim City」を外すという荒業で『Sim City』からは4曲に絞った。「Sim City」はオリジナル・アルバムやライヴのなかでこそ機能する曲で、単品としては扱いづらいという位置づけである。竹内さんも『Sim City』からの曲は、曲順で最後まで迷っていた。「Lotus」で終わるか「環太平洋擬装網」で終わるかであるが、結局は後者で落ち着いた。

今回のプロジェクトで、平沢さんから示された指針のようなものとしては、既発表曲の扱いは任せるけれども、デモや別ヴァージョンなどの未発表曲は基本的に扱わないというものがあった。お蔵出しではないということだ。ましてや当時はソフトウェア化しなかったTV番組などのソースもなし。個人的にはせめてカセット・ブックの『魂のふる里』は、既発表だし、なんとかCD化したかったのだけど。
レア・ヴァージョンとしては前述した「バンディリア旅行団」のクリック・ヴァージョンのほかにもいろいろあったわけだが、収録は断念。その一部を平沢さんの許可を得て、Gazioのトーク・ライヴで公開させてもらった。

ヴァージョン違いといえば『Archetype』収録の「フローズン・ビーチ」は微妙にヴァージョンが違う。オリジナル・アルバムでは、イントロとアウトロに波や流氷がぶつかる音(らしい)のSEが入っているが、今回はつなぎの関係上、アウトロのSEは入っていない。イントロも含めて完全にSEなしのヴァージョンという案もあったが、迫力に欠けるので見送り。

「フローズン・ビーチ」で思い出したことがひとつ。80年代後半、P-MODELのライヴで「フローズン・ビーチ」のアレンジがのちのソロ・ヴァージョンに近いものに変わって、間奏にキイボードで「炎のランナー」っぽいフレイズが入るようになった時、実はちょっとヤダった。しかし今回、國崎さんのライナーノーツでソロ・デビューにあたっては「歌えるヴァンゲリス」というコンセプトがあったことを知り、そういえば平沢さん、ヴァンゲリス好きだって言ってたなぁ、あれは狙いだったのかとようやく理解した。

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