ひとりで死ぬんがベスト? 倦怠期(あっこりんりん&野村尚平)試論

倦怠期
1st DEMO

倦怠期1stDEMO

01: わたしを煮て焼いて食って
02: しぬんやめよ
03: あくむみるいぬ
04: 遅刻
05: ほっといてトイレットorシガレット
06: 季節のおばんざい野村
07: いちいち
08: だれが令和のシドアンドナンシー
09: どっちが先に死ぬんがベスト
10: ドントコールミーオノヨーコエニモアファック

おとぼけビ〜バ〜のニュー・アルバムはまだだが、倦怠期の10曲入り『1st DEMO』が届いた。
倦怠期というのは、あっこりんりんと野村尚平の「夫婦」ユニットとされている。
実際に夫婦かどうかは知らないが、パートナーであるらしい。
(プライヴェートに関する情報は持ち合わせていない)
『1st DEMO』はライヴ会場(たぶん2026年1/24のO-EASTから)で販売されていたもので、通販用はシリアル番号201-300とある。
5/17現在は完売で購入不可のため、まだ世に300枚しか存在しないらしい。
kentaiki.base.shop/

倦怠期 (KENTAIKI) are
Vocal: あっこりんりん
Bass: 野村尚平
Beat Track: 西田竜大

Track 1.2.3.4.5. 7.9.10
作詞: あっこりんりん
作曲: 倦怠期

Track 6.8
作詞: あっこりんりん、野村尚平
作曲: 倦怠期

Recording & Mlx & Mastering:
須田一平(四ツ橋 LM Studio)

Photo : Mayumi Hirata

Art Director: 野村尚平

とりあえず1周。
最高。
力技で最後まで押し切るかと思いきや、ちゃんと「抜き」もある。
こうしたデュオ・スタイルのパンク/ニュー・ウェイヴというとどうしてもスーサイドを想起してしまうが、相通じるカッコよさ。
西田竜大が打ち込んだトラックに野村尚平の割れ気味の生ベースがびりびりとからむ。

しかし、聴くのがキツいアルバムである。
もちろん出来が悪いという意味ではなく、剥き身の音楽なのだ。
おとぼけビ〜バ〜の作品がよそ様に食べさせるよう調理され包装された作品だとすれば、生身の(レアな)あっこりんりんが迫ってくるようで恐い。
聴く回数を重ねてだいぶ慣れたが、そんなパーソナルでプライヴェートな作品だ。

ただ、単純とか単刀直入とかということでもなく、歌詞は技巧的ですらある。
「しぬんやめよ」なんかはザ・スターリンの「泥棒」のように、視点や視線、見る語る立場が多層的かつ多角的に変化する。

「わたしを煮て焼いて食って」では「邂逅」「凝視」なんて聞き取りづらい漢語も敢えて使って、聴き手に向けて真正面から対峙する。
「オチ」が素晴らしい。
リスナーという「お客さま」をも容赦しないのはパンクの伝統。
「ジジイ is Waiting For My Reaction」もそうかもしれんけど。

「おとぼけビ〜バ〜の裏側」とでも言うべき、対リスナー・ソングがいくつもある。
「あくむみるいぬ」では海外のビッグ・ネームとの共演についての巷の評判。
「だれが令和のシドアンドナンシー」ではSNSでの夫婦についての「茶化し」について。
「遅刻」もSNSの「地獄」について。
「ドントコールミーオノヨーコエニモアファック」では男をコントロールする女として見られることについて。

しかし、笑いを忘れないとこが偉い。

「おまえに関係ないやん ネットに住んでんと家でろアホンダラ」と凄むあっこりんりんに対して「SNSのアホ相手すな!」と野村のツッコミ。
「ダダダダダーリン」「ハハハハハニー」という掛け合いは「見せつけてやる」ムード満載でアルバム中もっとも和む。
(だれが令和のシドアンドナンシー)

マイネームイズアキコノットヨーコ
ヨーコイズマイシスターネーム
(ドントコールミーオノヨーコエニモアファック)

お経のように読み上げられ、これだけで笑う。
笑わん?
あっこりんりんの姉か妹がほんとにヨーコか知らんけど。

「遅刻」はアルバム中もっとも「楽しく」聴ける曲(「ハクション大魔王」を想起)だが、詞は切羽詰まってる。
だがここでも笑いを忘れない。

SNSやめたほうがいいですよ
おまえがやめたらええやんけ
(遅刻)

にしても、自分のタイムラインには、おとぼけビ〜バ〜やあっこりんりんについての誹謗中傷嫌味嘲笑の類は流れてこなくて平和なのだが、そんなに悪辣なのだろうか。
おかげでプライヴェートにまつわる話も流れてこないわけだが。
他人事ですんません。

「ほっといてトイレットorシガレット」「季節のおばんざい野村」は聴いてるほうが赤面しそうな夫婦漫才ではあるが「いちいち」は恐い。
「おまえら」と「おまえ」なのだ。
リスナーと対峙するのと同時に、あっこりんりんが野村尚平と対峙することによって、そして、あっこりんりんが野村尚平と「共闘」することによって生まれたアルバムなのだとわかる。

その「いちいち」から地続きになったような「どっちが先に死ぬんがベスト」が私的ベスト。
すごいラヴ・ソング。
「どっちが先に死ぬんがベスト?」という問いかけに「心中」という安易な解が出てこないとこが素晴らしい。
そういえば『死ぬ時は別』というWha-ha-haのアルバムがあったが、元ネタがあるのだろうか。
ということはさておき。

見送りたい?見送られたい?
見送りたないし見送られたない
どっちが先に死ぬんがベスト?

一生一緒にいるのがベスト
でもどっちか先に死ぬのがマスト

(どっちが先に死ぬんがベスト)

同じ歌詞の繰り返しだが、重ねるにつれ、どんどんこちらへ迫ってくる。
ブレイク後にテンポ・アップするとこが実にカッコいい。
遠くで歌っていたあっこりんりんが気がつくと眼前で歌っている。
恐い、けど、目を逸らせない。

生き残った者は死んだ者の生を背負って生きていくわけです。

1月は逃したので、ぜひ次のライヴは観たい。

倦怠期
通販おまけの「年賀状」

ことぶき光というAIが生成したポップ・ミュージック

ことぶき光
ポップミュージック

IRQ inc.
2026年4月28日発売
IRQC-1987

01 : バナナスライド
02 : ポプリ
03 : リッチー
04 : シナモンポスツ
05 : あでで
06 : 舞いココア
07 : 無人
08 : ゼリージェリーグライド
09 : テラピン
10 : ヨーグルトヨンダー
kotobukihikaru.com/kotobuki-hikaru-pop-music/

生成AIが一般化しはじめた2年ほど前。
(ChatGPTの公開は2022年11月なので、それしか経っていないのだ)
SNSは主に笑いの対象として「生成に失敗した絵」で溢れた。
腕が脇から生えていたり、首が2本あったり、というあれだ。
ミクロ的には精細な描写でありながら、マクロ的には不自然どころか、意図的でなければ人間が描かないような「大きな間違い」を偶発的に含んだ絵が「さすがAI」として取り上げられた。
それは一時期の現象で、いまではもうあまり目にすることはない。
いまは精巧に悪意を織り込んだような質(たち)の悪い「フェイク」が溢れている。

ここ数年のことぶき光の(表立っての)活動は異様に活発である。
2024年にプノンペンモデルが再始動して(と、端からは見えた)台湾や国内でライヴを行い、翌年にかけてのリリース・ラッシュ。

●CD
プノンペンモデル『Vast Empty Pulse』2025年4月30日リリース
ことぶき光『mosaic via post 〈2011 Remastered Version〉』2025年5月23日リリース
プノンペンモデル『金邊模型1994-2024』2025年6月20日リリース

●本
『モデムとエンジンと、夜の千キロ』2025年7月11日リリース
『ポップミュージックの方法』2025年8月28日リリース

さらには YouTube にて「ロジックの王道」や動画版「ポップミュージックの方法」を公開するなど、目まぐるしい。
そして、24年ぶりのソロ・アルバム『ポップミュージック』のリリース。
音楽理論書『ポップミュージックの方法』(*1)の実践篇と田中雄二は位置づけていたが、流れからいってそうなのだろう。
申し訳ないがわたしは未読(断片的に読んだが理解できなかった)。
海外ツアー記は楽しく読んだけど。

ジャケットの画像やPVは『Vast Empty Pulse』『金邊模型1994-2024』同様、ことぶき光が生成AIを利用して作成したもの。
ことぶき光と生成AIの親和性というのはさもありなんで、生成AI登場前から、ことぶき光は自分の脳内で生成AIを使っていたのである。
というより、ことぶき光自身が生成AIだったのだ。
生身の人間でありながら、人工知能のように思考する。
人工知能のように情報を扱うことが可能な人間と言ったほうがよいか。

アルバム『ポップミュージック』を聴いた第1印象は「考えすぎじゃないか?」というものだったが、むしろ敢えて人間のようには考えなかったのかもしれない。
ことぶき光という生成AIに古今東西の音楽理論の情報を取り込ませ出力させた結果だ。
ポップ・ミュージックというものを理論通りに、情報通りに精緻に組み上げていった結果できあがった「失敗した生成AI画のような」異形のポップ・ミュージック。
部分的にはおかしくないが、全体としては奇妙で人間の生理を逆撫でする音楽。
J-POPすら取り込みながらもそのメイン・ターゲットたちは残念ながら寄せつけない。
世にあふれる生成AIで作成した音楽とは次元が異なる。
このアルバム自体も生成AIを利用してはいるのだろうが、結果としてできあがったものは、ことぶき光そのものである。

*1 大学講師をやっていた時のレジュメと思われるPDFが自サイトで公開されている。大著『ポップミュージックの方法』はその集大成らしい。
kotobukihikaru.com/method/