もうじき発売になる平沢進のエッセイ集『来なかった近未来』の編輯をした。
これは編者あとがきに書かなかったどうでもよい舞台裏、あとがきのあとがきである。
AMIGAといえば、知っているひとは80年代のサブカルチャ的なものを想起するだろう。
『ウゴウゴルーガ』あたりのチープでポップなCGやDEMOのアンダーグラウンドな世界。
そうしたAMIGAに対する印象は間違ってはいないし『来なかった近未来』が連載されたFAMIGAも「ギークの女王」なんてフレイズを使っていた。
しかし『来なかった近未来』の単行本化ではそういう路線の装幀はやめようね、というのがデザイナーとの共通認識であった。
さらに言えば、これまでの平沢作品のジャケットからも外れたデザインがいいよね、というのも共通認識であった。
安直な譬えをするならば、あっさりとした純文学系書籍のような、もしくは女性誌のような(って幅ありすぎ)感じ。
結果としてそうなっているかどうかはともかくとして、要はダークだったりメカニカルだったり男性的だったり変態的だったりするのはやめようということである。
キッチュだったりスチームだったりサイバーだったりといった近未来SF的なデザインにするのはやめようということである。
じゃあこんなんはどうだろうと、デモ写真をデザイナーに見せたところ「なんだか“来なかった感”があっていいんじゃないですか」とのこと。
プロに頼むには過酷すぎる撮影条件だし予算もないので、結局、使用写真も自分で撮ることになったのであるが、作品ではなくあくまで素材なので芸術性は問わないでいただきたい。
12月末の夜明け前、デザイナーの遠隔ディレクションのもと、極寒(大袈裟)のなか高所恐怖に耐えながら、数日にわたって異なる天候条件のもといくつかのパターンで撮影。
被写体はA600という小型マシンなのだが、自分自身もさることながら、ビル最上階の舳先みたいなところに置かれたA600が地上45mから転げ落ちそうで不安であった。
目が眩み身体はびびりながらも撮影は決死の覚悟(だから大袈裟だって)でなんとか完遂。
にもかかわらず、デザイナーによって表紙に採用されたのはデモで撮った最初の写真。
ま、世のなかそんなもん。
実は表紙には裏コンセプトのようなものがあって、クラスター&イーノ、イーノ・メビウス・レデリウス『アフター・ザ・ヒート』そしてフリップ&イーノ『イヴニング・スター』のジャケットである。
単に画面が空と地上で2分割されてるとか、その真ん中にブツが映ってるとか、そういう程度ではあるが、ああいうひんやりとした孤独感が出せればいいなあと思ったのである。
思っただけで出せなかったけど(笑)。
そんなこんなで年末年始はイーノばっかり聴いていたのであった。