本書は、2010年8月24日に他界した今 敏の第2エッセイ集であり、2002年9月に上梓された書籍『KON’S TONE -「千年女優」への道』の続篇にあたる。
彼の存命中から企画はあったが、昨年の一周忌には回顧展の開催と画集の発売を優先させ、エッセイ集の制作は見送った。ただ、結果的には2年という時間を経てよかったと思っているし、この時間を経なければできなかった本でもある。
書名となった「KON’S TONE」とは彼のWebサイトの名前であり、第1エッセイ集には次のように記されている。
タイトルは「今 敏の口調(TONE)」に「石(STONE)」をかけたもの。化石が好きという理由もあるが、時間が堆積するほど「KON’S TONE」も長続きして欲しいというささやかな願いも込められている。
全体としてはサイト「KON’S TONE」上のブログ「NOTEBOOK」で2007年から2010年に書かれた文章を中心に、2010年の日誌を加えた構成になっている。2003年から2006年までの文章が含まれていないのは、単にこの間はサイトの更新がほとんどなかったためである。『千年女優』後の今 敏が非常に多忙になったことに加え、当時は自分でHTMLを書くというスタイルでサイトを運営しており、とてもじゃないが手が回らなかったのだ。2007年にサイトをリニューアルして更新が容易になってからは、今 敏の文章書きも再び活性化する。
前エッセイ集同様、収録する文章の選択や校閲、構成といった編集作業は高橋が行ったが、著者は他界してしまったので著者自身による校正や加筆訂正はできない。最終確認は、著者の相続人であり、本書の発行人でもある株式会社KON’STONE代表の今 京子さんが行った。
「NOTEBOOK SELECTION」各章は、次のようなテーマに沿って編纂している。
●NOTEBOOK SELECTION 1
作品や創作姿勢についての批評など「仕事寄り」なテキストをピックアップ。時期的には2007年と2008年が中心。
10年以上も専門学校や大学で授業をもっていたせいか、また監督という指導する立場にあったせいか、今 敏は後進へ向けた文章を意外なほど多く遺している。
厳しい表現が目につくが、ほとんどは自戒を込めた文章であり、創作活動を行っている者、行おうとしている者にとっては示唆に富む。
●NOTEBOOK SELECTION 2
正月や旅行といった私的なイヴェントの記録や日常生活についての雑感を集めた。時期的には2008年と2009年が中心。
理詰めで書かれた前章とは対照的な、ゆるく柔らかい表現で、彼らしいユーモアが溢れている。こうしたバランス感覚こそが今 敏ではないか。
●NOTEBOOK SELECTION 3
2010年7月から8月まで、病床でiPadを使ってタイピングした短文が中心。奇蹟的に危篤から生還したあとであり、当然のことどの文章も死を意識して書かれてはいるが、病気については公表していなかったため直截は触れられていない。
最後の「さようなら」は、8月9日の明け方にメイルで送られてきた文章で、死後に発表するよう頼まれた。癌告知後からの日記をベースに推敲を重ね、時間をかけて書き上げたらしい長文である。死期が延びれば改訂するつもりもあったようで、文頭には「08-09最新」と添え書きしてあった。
息を引き取った翌日に公開され、現在まで40万PV近いアクセスを記録している。
このエッセイ集には、こうした既発表原稿に加えて、彼の「日誌」を収録している。
読んでいただければわかるように、日誌とはいえ公開を前提として書かれたものであり、今 敏自身もなんらかの形で発表されることを望んでいた。末期癌と告知されたあと、彼にはブロクで発表する意志もあったのである。結局、制作中の映画『夢みる機械』への悪影響を慮って公表は控えたが、彼としては日常に出現したこの非日常を克明に記録し、時期が来たら公開したいとも考えていた。自サイトに「今 敏アーカイヴ」のようなコーナーを作り、未発表の文章や録音した語りなどをまとめるのはどうかと提案されたこともある。
そうした経緯もあり、わたしにとってこの日誌をひとつの形にして世に出すことは、彼に託された一種「義務的な遺産」であった。彼に課された宿題のようなものである。
また暑い季節が巡ってきて、2年前が思い起こされる。けれども、この夏が終われば、わたしにとっての長い夏休みもようやく終わるような気がしている。
2012年7月16日 高橋かしこ
konstone.s-kon.net/modules/works/index.php?content_id=12
編集者としてのあとがきでは書かなかった個人的なあとがきはこちら。
moderoom.fascination.co.jp/modules/DayScanner/archives/category/aeui/omoi