ザ・ビートルズの MONO BOX を聴いた「言い訳」

ザ・ビートルズの『MONO BOX(The Beatles In Mono)』をようやく聴き終わった。
ちゃんとしたヘッドフォンを持っていないので、オーディオ装置の前に座って1枚1枚ちゃんと聴いていたら、やたら時間がかかってしまったが、結論から言えば「買ってよかった」である。
そして、困ったことに通常のステレオ・リマスタのボックスも欲しくなってしまった。
というのには、いささか事情がある。
いや、事情がなくてもみんな買ってるわけだけれども、ちょっと言い訳してみたい。

言い訳その1


今回のリマスタリング音源を聴き比べるといっても、さまざまなパターンがある。
ざっと考えられるだけでも次のような組み合わせがあるだろう。

1. アナログ盤/モノラル vs 新CD/モノラル(*)
2. アナログ盤/モノラル vs 新CD/ステレオ(**)
3. アナログ盤/ステレオ vs 新CD/ステレオ
4. アナログ盤/ステレオ vs 新CD/モノラル(*)
5. 旧CD/モノラル vs 新CD/モノラル(**)
6. 旧CD/モノラル vs 新CD/ステレオ(**)
7. 旧CD/ステレオ vs 新CD/モノラル(*)
8. 旧CD/ステレオ vs 新CD/ステレオ
9. 新CD/ステレオ vs 新CD/モノラル(*)

上記「旧CD」とは1987年版のCDを指し「新CD」とは2009年版のCDを指す
*『プリーズ・プリーズ・ミー』〜『イエロー・サブマリン』のみ可
**『プリーズ・プリーズ・ミー』〜『フォー・セール』のみ可

ザ・ビートルズの全作品にステレオ/モノラルの両方があるわけではないので、上記の組み合わせが全作品において可能なわけではない。
さらに細かいことを言えば、アナログ盤にもオリジナル盤とデジタル・リマスタ盤があるし、もっとたくさんのパターンがあるだろうが、マニアではないのでよく知らない。
そういえば、宣伝文句では「初のデジタル・リマスター」とかって言ってるけど、旧CDにも再発アナログ盤にも「Digitally Remastered」って書いてあるんだよな。
ぜんぜん初じゃない。

ところで、ミニチュア紙ジャケットは、世界中で日本の印刷技術はすごいとか褒められてるらしいし、確かによくできてるけど、赤かぶりしてないか?
ロットのせいかもしれないし、字がつぶれないのはすごいけど。

さて、今回のリマスタリングでのサウンドの変化を比較・検証するのであれば、上に掲げたパターンのうち(1)(3)(5)(8)あたりが中心になるだろうし、モノラルとステレオの比較とうことなら(9)になるだろう。
しかしながら、前回の「言い訳」にも書いた通り、ザ・ビートルズのオリジナル・アルバムはアナログ盤では揃っているが、旧版CDでも新版CDでも1枚も持っていない。

赤・青のベストと『パスト・マスターズ』は旧CDで持っているので、一部の旧ステレオCDミックスと、旧モノラルCDミックスは聞くことができるが、アルバム単位ので聞き比べが可能なのは(1)くらい。
あとは上に揚げたパターン外だが、アナログ盤/ステレオと新CD/モノラルという、あまり意味があるんだかないんだかわからない組み合わせである。
『MONO BOX』を語るには『STEREO BOX (The Beatles Box)』も買わなくちゃいけないのではないか。
ステレオCDを聴いてないのにモノラルCDの話をするのは片手落ちも甚だしいと言わざるを得ない。

言い訳その2


かように極めて不完全な状態ではあるけれども、旧音源と比較した『MONO BOX』の感想を備忘録がわりとして書いておこう。
ちゃんとしたザ・ビートルズのサウンド研究書はたくさん出版されているし、Web上にも情報はあふれているので、あくまで個人的なノートである。

まずは、すでにアナログ盤でモノラル・ミックスを持っていた『プルーズ・プリーズ・ミー』から『フォー・セール』だが、これを(アナログ盤の)ステレオ・ミックスと比較した場合はどうか。

これはもうモノラルがいいに決まっている。
トラック数など当時のレコーディング機材や技術、エンド・ユーザの再生環境への配慮があったのはわかるが、いま聞くとヴォーカルが片チャンネルからしか聞 こえないサウンドはやっぱりは奇妙だし、ヴォーカルがセンターで音像を結ぶ曲でも、ドラムが左だけとか、楽器が左右にきっぱり分かれているのはどうもなじ めない。
もちろん初期ナンバーでも「抱きしめたい」のようにステレオのほうがいいかも、と思うナンバーもあるし、再生環境にもよるだろう。
ほかのサイトでも散見したが、携帯プレーヤのヘッドフォンやPCスピーカなどではステレオのほうがよく聞こえるかもしれない。
だが、それなりのオーディオ装置で大きな音で聞くと、概ね初期ナンバーは生々しいモノラル・サウンドのほうがよい。
モノラル・ミックスは、ヴォーカルも前面に出てくるし、ベースびんびん、ドラムどかどか、際立って響くようミックスされている傾向があるので、特にハードな初期ナンバーは荒々しく野太いモノラルのほうがよい。
では、そのモノラル・ミックスが新しいリマスタリングでどうなったかというと「自分の再生環境では」という断り書きのうえで、次のような順。

アナログ盤 > 新CD > 旧CD

今回のリマスタリングはアナログ盤の音に近い自然な音を目指したそうで、モノラルしか聴いていないものの、その点は非常に納得できる音になっている。
旧CDのリマスタリングが悪いとは思わないし、極端な差があるわけではないけれども、新CDのほうがCD独特の「シャリシャリ感」が減って、より自然で迫力のある好ましい音にはなっている。
しかし、では、アナログ盤と比べて新CDはどうかというと、う〜ん、やっぱりアナログ盤のほうがいいんだな。
これも微妙な差であり、再生装置の差かもしれないが、やはりアナログ盤のほうがモノラルならではの迫力をより強く感じるし、アナログ盤特有のスクラッチ・ノイズが入るにしても、やっぱり「いい音」に聞こえる。
ここは公平にステレオ・ミックスのアナログ盤とCDも聞き比べて判断したいところである。

言い訳その3


それでは、これまでモノラルで聴いたことのなかった『ヘルプ!』から『イエロー・サブマリン』まではどうか。

『ヘルプ!』は初期作品だし、やっぱりモノラルがいいだろうなあ、と思っていたら、やっぱしそうだった。
ただ、タイトル曲の「ヘルプ!」なんかは分離のいいステレオのほうがサウンドにキレがあっていいかなとも思うし、再生環境や好みの問題もあるかもしれない。

『ラバー・ソウル』『リヴォルヴァー』といったザ・ビートルズが大きく変化した中期の作品はどうだろう、さすがにステレオがいいんじゃないだろうか。
と思っていたが、実際に聴いてみるとこれもやっぱりモノラルのほうがいいんだな、自分としては。
『MONO BOX』には『ヘルプ!』『ラバー・ソウル』のこれまで未CD化だったオリジナル・ステレオ音源も収録されているが、アナログ盤のステレオ・ミックスに馴染んだ身としては、あまりレアではない。
逆に、CDのステレオ・ミックスのほうを聞いたことないのだ。
それじゃあ、ミックスの違うCDヴァージョンのステレオはどうなんだと思うのが人情である。
妙な違和感のないミックスだったら、モノラルよりいいかもしんないではないか。

スタジオ・ワークに懲りまくった『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』『マジカル・ミステリー・ツアー』はどうか。
さすがにもう60年代後半の作品でもあるし、ちゃんとしたステレオ・ミックスもされていそうだし、モノラルよりステレオのほうがいいに決まってる…そう思っていたのだが、あに図らんや。
やっぱりモノラルのほうがいいのである。
『サージェント・ペパーズ』に関しては、違う作品に聞こえるほど印象が異なっていて、これまでの「ちまちまと細工を施したサウンド」という作品観を吹き飛ばしてくれた。
これはほんとに聴いておいてよかった。
「モノラルで聴いてこそ、あなたは本当に『サージェント・ペパー』を聴いたことになる」(ジョージ・マーティン)という宣伝文句は本当だった。
「ア・デイ・イン・ザ・ライフ 」の後半部分の盛り上がりなんてステレオならではだろうと思っていたのだが、モノラルのほうが迫力を感じた。
いや、音が太ければいいのかと突っ込まれそうだが、そういう好みなんだからしょうがない。
単に音の印象が違うだけでなく、モノラルとステレオでは曲によってピッチが違ったり、曲のつなぎが違ったりするわけで、ミックスが違うというより「ヴァージョン違い」なわけだが、そのへんは研究本などに詳しい。
モノラル盤に限った話ではないが、CDで聴いたのは初めてなので、最後のおふざけ(サージェント・ペパー・インナー・グルーヴ)が繰り返し入ってるので驚いた。
『マジカル・ミステリー・ツアー』に関しても同様だが、たとえば「フール・オン・ザ・ヒル」のように管楽器が多用されていている曲は、ステレオのほうがよかったかな。

実質的に最後のモノラル・ミックスのオリジナル作品『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』はどうか。
う〜ん、曲にもよる、かな。
けど、全体的にはステレオのほうがいいかな。
このアルバムの途中から8トラックでレコーディングされ、ステレオ主眼でミックスされた(異説あり)そうなので、そのせいもあるだろう。
たとえば「バック・イン・ザ U.S.S.R.」から「ディア・プルーデンス」への流れはステレオのほうが美しい。
「レヴォリューション9」なんて、やっぱりモノラルでは魅力半減である。
でも「グラス・オニオン」「ハッピネス・イズ・ア・ウォーム・ガン 」「ヤー・ブルース」なんかはモノラルのほうが力強くていい。
また『サージェント・ペパーズ』同様このアルバムも 曲によってはステレオとモノラルでヴァージョン違いと呼べるほど細部が異なっている。
ステレオ・ミックスはアナログ盤でしか持っていないので、ステレオ・ミックスのCDで聴いてみたい。

『イエロー・サブマリン』のモノラル盤は「ステレオ・マスターをそのままモノラル化しただけのもの」らしいし、ももともと制作時期の違うナンバーを寄せ集めたアルバムである。
今回の『MONO BOX』にもアルバム単位では収録されておらず、コンピレイションの『モノ・マスターズ』に4曲収録されただけである。
「ヘイ・ブルドッグ」なんかはステレオがいいかな、
なお『モノ・マスターズ』収録のシングル曲は、もともとモノラルを想定してミックスされているだけに、やはり総じてモノラルがいい。

というわけでほんとに買ってよかった『MONO BOX』だが、こうなると聴いたことのないステレオ・ミックスを聴きたくなるし、アナログ盤のステレオと同じミックスでもCDで欲しくなるってもんである。

ところで『MONO BOX』で初期〜中期のザ・ビートルズを聴き直して思ったこと。
「こんなにタンバリンがシャカシャカ鳴ってるバンドだったったか!?」

付記:
マニアが「ビートルズを聴く」ってこういうことです。
www.bounce.com/article/article.php/5472/ALL/
鈴木慶一も全アルバムを揃えていなかったんですね。

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