ザ・ビートルズの MONO BOX を買った「言い訳」

とうとうザ・ビートルズのリマスタを買ってしまった。
ここでその言い訳をしたいと思う。
なぜ言い訳が必要になるのかという疑問を感じる向きはあまり読んでも意味はない、と最初に断っておく。
また、サウンドそのものの話は出てこないので、そっちを期待された向きも読んでも意味はない、とこれも断っておく。

ご存じのようにザ・ビートルズのデジタル再リマスタに関しては賛否両論ある。
わたしはどちらの立場でもないが「やや反対派寄り」で筒井順慶を決め込んでいた。
音も含めて判断するには結局、自分で買って聴くしかないわけだから、作品を聴く前の段階での買うべきか買わざるべきかという議論というのは、作品自体の善し悪しではなく、いわば「態度」の問題である。
この「態度」というのは、ザ・ビートルズに対する態度でもあるし、こうしたリイシューもの全体に対する態度でもある。

いちばんシンプルな問題としては「ビートルズをいい音で聴きたいか?」ということだ。
そりゃあいい音で聴きたい、というシンプルな答えもあるだろうが、ザ・ビートルズが作品をリリースした時点の音楽再生環境を基準に考えるなら意味がない、という答えがリアルタイム世代を中心に返ってくる。
それに対しては、ザ・ビートルズはほんとうの意味での新作が出るわけはないのだから、リマスタも別な作品として楽しめばいいではないかという意見。
今回のリマスタはアナログ盤のサウンドに忠実にリマスタしたわけだからいいではないかという意見。
いろいろある。
自分自身はリアルタイム世代ではないが、やっぱり「ビートルズの音」はAMラジオが似合うと思うし、アナログ盤から出る音だと思う。
といっても、べつに強固なアナログ音源主義者というわけでもないし、手軽にCDで聴ければいいじゃん、という適当な立ち位置ではある。
しかし、こういう再リリースは、なんかこう、騙された気がしていやなんである。

そもそも、貧乏性であるわたしは、アナログ盤からCDへの買い換えだってほとんどしていないのだ。
CDが発売された当初、おぼこい学生であったわたしは、レコード・メーカはアナログ盤を引き取ってCDと交換してくれると思っていたくらいである。
無料は難しいかもしれないが、ある程度の手数料を支払えば交換してくれるようになるに違いないと本気で考えていた。
大笑いな話ではあるが、この考え自体は間違ってはいないと今でも思う。
だってそうではないか。
ハードウェアの仕様を勝手に変更し、これまのでのソフトウェアを実質的に使えなくしておいて、そのコスト負担をすべてユーザに押しつけ、メーカ側は責任をまったく取らなくてもいいというのは、ほかの業界では考えられないことだ。
特に日本の音楽産業ではハードウェア・メーカとソフトウェア・メーカは系列企業として一体化しているから、こういうゴリ押しがユーザ無視でまかり通りやすい。

そういうわけで、ビートルズのオリジナル・アルバムはアナログ盤では持っているけれども、CDでは持っていない。
赤盤青盤のようなベスト、パスト・マスターズやアンソロジー・シリーズのようなCD時代になってからリリースされた作品しか、CDは持っていない。
アンソロジー・シリーズやBBCセッションも、嬉しい音源ではあったけれども、メーカ側の態度に、ビートルズ作品に対する愛情よりもユーザを食い物にしようという魂胆のほうが透けて見えていやな気分はした。
それでも未発表音源であるから致し方ない。

しかし、今回は既発表もいいところのみんな知ってるオリジナル・アルバムの再リマスタである。
いろいろ理由付けはあるけれども、商売の臭い、ビートルズやリスナを食い物にしようとする態度が濃厚に漂っている。
もちろん実際にリマスタリングしたエンジニアの仕事を否定しているわけではない。
それを売っている側である。
それが端的に表れているのは、やはり「値付け」である。

日本版のボックス・セットは、通常のステレオが35,800円、限定版のモノラルが39,800円である。
ステレオのボックスはCD1枚あたり2,237円、オマケのDVDを計算に入れても2,105円、単品CDだと1枚2600円だ。
amazon.co.jpの割引価格だとステレオのボックスは29,369円だが、それでも1枚あたり1,835円、DVD加算で1,727円である。
モノラルは単品CD未発売で、特典CDを加算してもモノ・ボックスのCDは1枚あたり3,061円である。

ザ・ビートルズの作品そのものの「価値」を値付けするならば、1枚が1万円でも10万円でも100万円でもいいだろう。
だが、ザ・ビートルズの音源は1点物のファイン・アートではない。
複製を前提としたポップ・アートだ。
しかも、手刷りのシルク・スクリーンでもリトグラフでもないし、オリジナル・プリントの写真でもない。
工場でプレスする大量生産品である。
そして、ザ・ビートルズは世界で最も大きなマーケットをもっているバンドだ。
単純に商売として考えたって、薄利多売したほうが総利益は高いはずである。
実際、アメリカのアマゾンではリマスタ盤が1枚12.99ドルで売られている。
しかしながら、少なくとも日本でザ・ビートルズのアルバムが1枚1000円とか1500円とかで売られた記憶はない。
日本のレコード/CDの価格設定に関しては今さらここで書いてもしょうがない根が深い問題なので、これ以上書かないけれど、売上減に対してCCCDなどというバカなもんを作って対抗しようとした連中の罪深さは忘れないでおきたい。

さて、そういうわけでザ・ビートルズのリマスタを買うか買わないかであるが、結局、限定版の『MONO BOX(The Beatles In Mono)』だけ海外版で買うことにした。
その理由というか言い訳。

1) ビートルズのオリジナル・アルバムをCDで持っていない
2) アナログ盤はいい加減すり切れて音質劣化も甚だしい
3) 携帯プレーヤで聴きたい
4) モノラル版CDは今後入手できるかどうかわからない(というメーカ側の脅し)
5) ステレオ版リマスタはどうせ次世代規格で再リリースされるし、いつでも買える
6) モノラル版は『フォー・セール』までアナログ盤で持っているけど『ヘルプ!』以降は持っていない

最大の理由は(2)で、実はモノラルのアナログ盤は10年くらい前にデジタル・リマスタリングされたパーロフォン版の再リリースを輸入盤で持っていたりするのだが、今回のリマスタのニュースを知って久しぶりにターン・テーブルに乗せてみて愕然としてしまったのだ。
買った当時はCD不要と思うほどの高音質かつモノラルで聴く初期ビートルズの迫力に圧倒されたが、無惨に劣化してしまっていた。

限定版と言いながら生産し続けられる可能性や再リリースされる可能性もあるが、これまでザ・ビートルズの限定企画ものは実際にあとで入手するのが難しかったりするので、今後どうなるかはわからない。
日本版では対訳やら解説やらもつくし、ビートルズ・クラブの仕事ならいいのかもしんないけど、上記理由と価格でパス。
Amazonでアメリカ版を買うことにする。

『MONO BOX』は、amazon.comで199.9ドル、送料込みでも207.97ドルだ。
昨今の円高のおかげで、カードの請求によると18,577円(1ドル=89.33円換算)であった。

日本時間で12/10の朝に購入し、翌12/11朝に発送された。
注文時には「Standard便だと1/26着予定で、ぜーったいにクリスマスまでには届かないからな」と、なん度も英語で警告されたが、いくらクリスマス前の繁忙期とはいえ、船便じゃないんだから10日もあれば普通は届くよな、と思ったら案の定、12/19の朝に届いた。
ラベルには「International Surface Airlift」と書いてある。
USPSはよく使ったけど、これは初めて見る。
国内は陸便で国外は航空便という、日本で言うところのSAL便のようだ。
関税500円、通関200円也。
USPSで発送された場合、値段に関わらず関税は取られないことも多いが、今回はハズレというかアタリ。
トータルで19,277円也。
クラフトワークのボックスは「デカい」と評判だが、郵便屋から手渡された第1印象は「ちっちぇなあ」だった。
すこし段ボール箱がへしゃげていたのが気になったが、中身は問題ない。

この文章を書いて気分がすっきりしたので、ようやくパッケージを開けてみることとしよう。
音の話は…気が向いたら書くかもしんない。


2010/03/15追記

Amazon.com で MONO BOX は159.57 ドルまで下がってた。
限定版とか言いながら在庫がだぶついてるのか、STEREO BOX より安い。
悔しいので記しておく。

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