沈みたい / 中野テルヲの発振するシグナルとノイズ

震災からこっち、節電のため大出力のアンプリファイア+スピーカで音楽を再生することは控えていたのだが、禁を破ってしまった。
ごめんなさい、すべて中野テルヲというひとが悪いのです。

3月4月と世間的にも個人的にも精神的にも肉体的にもしんどいことが続いて、さすがにちょっと疲れていた矢先に中野テルヲの『Signal / Noise』が届いた。
オリジナルとしては96年の『User Unknown』から15年ぶり、コンピレイション(って言っていいのかな)『Dump Request 99-05』からでも6年ぶりのソロ・アルバム。
これがほんとに心地よいのだ。

自分に限ったことかもしれないが、これまで中野テルヲの音楽というのは、聴くほうを構えさせるところがあった。
それはなにも悪いことではなく、生真面目に、真剣に作った音なのだから、こちらも心して聴かねば失礼という対峙の仕方。
だからまさか中野テルヲの音楽に身を委ねることがあろうとは思わなかったのだ。

レトロ・フューチュアなデヴァイス群で奏でる懐かしいシグナル、安堵するノイズ。
「好きに聴いてください」「聞き流してくれてけっこう」
そんなふうに言っている気がする。

特にM3「My Demolition Work」から「フレーム・バッファ I」「Eardrum」の流れ、ラスト・ナンバでタイトル・ソングとも言える8分7秒の「ファインダー」は、音楽で心身のマッサージを受けるが如し。
我慢して携帯プレーヤやPCで聴いていたのだけど、このサウンドに身を沈めたくてオーディオ装置の前に座った。

M6「Long Distance, Long Time」以外はミディアム・テンポ〜スロウ・テンポの曲ばかり。
中野テルヲが少年時代からなじんできた短波ラジオのチューニング・ノイズ。
UTS(Under Techno Sysytem)の発するプリミティヴな信号音。
シンプルで抑制されたシンセサイザーの発振音とメロディ。
半分くらいはインストゥルメンタルのような気がしていたのだが、聴き終わって確認したら全曲が歌入りだった。
押しつけがましくなく品がある中野ヴォイス。
なにより気持ちがいいのは身体を包み込むようなダブっぽいエコー。

ジャケットがまたいい。
と思ってクレジットを見たら中野テルヲ自身によるアート・ワークだった。
すべてが中野テルヲそのもの。
テクノ・ポップにおけるアコースティック、テクノ・ポップにおけるローファイってこういうんじゃなかかろうか。

このアルバムを聴いたあとに1stアルバムを聴いてみたら、以前とは違って聞こえた。
もしかすると中野テルヲ自身はなんの変化はなくて、受け手である自分が変わっただけかもしれない。

中野テルヲ公式サイト
www.din.or.jp/~teru-o/

Beat Surfers
2011年7月23日には高円寺HIGHにでワン・マン・ライヴ
beatsurfers.syncl.jp/

Signal / Noise

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